御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
考え事をしている間に用を足したらしい誠人に声をかけられ、ふと我に返る。いそいそとベルトを締める誠人を見て、それトイレで直してから出てこれないものなのか、と思ったがめんどくさいので口にはしない。
明日の出勤時間を確認して玄関に向かう誠人の背中を見送ると、一度ダイニングルームに入って照明を灯す。
先に食事をしようか、風呂に入ろうかと先ほどと同じことを考えながらテーブルに近付くと、おかずのお皿にラップがかけてあった。
(今日は鶏の照り焼きか)
メニューを確認した翔は『先に食うか』と結論付ける。今はすっかり冷めてしまっている料理を、美果と一緒に温かいうちに食べたいんだけどな、と思いながら。
しかし電子レンジで温め直そうと皿を持ち上げた直後、再び廊下からドタバタと大きな足音が聞こえてきた。
「しょ、翔っ……!」
「!? ど、どうした……?」
「玄関にもネコチャンいた! あれトイレのやつと姉妹だろ!?」
「は?」
血相を変えて戻ってきた誠人の様子に驚いたが、彼の発見はまたしてもどうでもいい内容だった。思わず不機嫌な声が出る。
「知らねーよ。置物にオスとかメスとか兄弟とかねーだろ」
「いや、ぜったい姉妹だって。なんかトイレのよりちょっと大きいし、目が可愛い」
「……」
知るかよ、とげんなりすると、誠人が翔の肩を掴む。そしてその肩を前後に大きく揺すられる。
「お前、天ケ瀬翔だぞ!?」
「うるせーよ、そうだよ、当たり前だろ!」
本人だぞ、と怒鳴りたい気持ちを懸命に押さえる。もう自分でも何に怒ればいいのかわからなくなってきた。