御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 完璧を目指す翔にとって、マイナスにしかならない存在を身内に持つ美果は、翔の気持ちを受け入れるわけにはいかない。

 一応このままの関係を続けることも出来るが、それはプロポーズの瞬間まで。翔にこれ以上の関係を求められたときが二人のリミットになることを、奇しくも梨果のおかげで思い知る美果だった。



   * * *



「美果」

 翌週土曜日、午後三時になる少し前。
 すべての家事を終えた美果に、リビングのソファから立ち上がった翔がそっと声をかけてきた。

「あ、ごめんなさい……私、今日も用事があって」
「まだ何も言ってないぞ」
「……」

 あれからも美果は延々と悩み続けていたが、やはりどうしていいのかわからない。本当はこれまでと同じように接していいはずなのに、今週もつい翔の誘いを断ろうとしてしまう。

 美果の遠慮に呆れたようなため息をついた翔だったが、苛立って責めるようなことはせず、

「美果、おいで」

 と、優しい声で手を引いて、美果をそっとソファに座らせてくれた。

 本当は今日も、すぐに帰ろうと思っていた。

 本音を言えばもっと一緒にいたいし、もっと深く触れ合いたい。だがそれと同じぐらい、翔に大切にされることが怖い。美果の素っ気ない態度に怒ってもいいはずなのに、美果を労わろうと背中を撫でてくれる翔に申し訳ない気持ちばかりが募る。

 いつか離れなければならない相手に甘えたくなる自分が、本当はたまらなく嫌なのに……

「美果。少し早いけど、誕生日プレゼントがある」
「……え?」

 翔の宣言に、思わず間抜けな声が出る。

 誕生日? と疑問に思いながら視線を動かすと、確かに壁にかけられたカレンダーは九月のもの。

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