御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だから姉妹の心が離れたり、許せない気持ちが生まれることは悪ではない。受け入れられない感情を無理矢理飲み込んで許す必要はない。そんなことをしても、幸福にはなれない。
静枝の瞳がそう語ってくれていることに気付いて、美果の目にまた涙が溜まっていく。梨果を許せない自分を、静枝が赦してくれたように思えて。
「美果ちゃんは、梨果ちゃんのわがままを許してあげられないことを格好悪いと思ってるから、素直になれないのね」
「……うん」
静枝の確認の言葉にこくんと頷く。
その通りだ。この感情を翔に知られたら嫌われてしまう気がする。優しいな、えらいな、と美果を褒めてくれた彼を裏切って、失望させてしまう気がする。
「大丈夫よ、格好悪くも醜くもないわ。だって美果ちゃんがこんなに一生懸命に悩むのは、その人のことが大好きだからなんだもの」
「おばあちゃん……」
けれど静枝の微笑みを見ていると不思議と安心できる。胸の底に沈んでいた黒い感情が少しずつ薄れて消えていく。美果の恋心を知って受け入れてくれる存在が、苦しい感情のひとつひとつを解放して心と身体を軽くする。
本当は静枝の言う通りだ。美果がこんなにも深く悩んでしまうのは、翔に強い恋心を抱いているから。翔に嫌われるのが怖いからこそ、本音を知られたくないと思うのだ。
静枝はその気持ちも大事にしていい、自分に素直になって相手とじっくり向き合うべきだ、と語る。美果を諭すようにそっと頭を撫でてくれる。
「大切なのは美果ちゃんと相手の気持ちよ。周りの人との関係ももちろん大事だけど、それよりも二人の気持ちの方が重要なの」
「……うん」
「愛は強いわよ? それは私が証明するわ」