【Quintet】
『お前ら、俺をからかって遊んで楽しい?』
『超楽しい』
『悠真が動揺する顔って沙羅関連でしか見られないもんな』

 星夜と晴に急かされ、事務所の車を借りて渋谷の家に戻った悠真が目にした光景は二人のベッドイン……ではあるが、星夜と晴の妄想よりはまだマシだった。

無論、悠真が現れずに海斗の気力がもう少し保てば彼らの不埒な妄想通りになっていたかもしれない。

 先ほどの光景で聴いた音が耳に残っている。海斗に押し倒されてキスをされる沙羅の苦しげな息遣いと甘く漏れる声。

 あんな声が出せるほど沙羅も大人の女性に成長したのだ。その甘い声を出させたのが弟の海斗だと言うのは、実に腹立たしい。

手遅れになる前に沙羅を守れてひと安心。しかし玄関まで見送りに来た沙羅は海斗のキスの余韻か、赤らんだ顔でぼうっとしていた。

 そろそろ本格的に動き始めないと海斗か星夜に沙羅を奪われてしまう。以前に晴に言われた通り“お兄ちゃん”枠から抜け出せなくなるのは洒落にならない。

沙羅の“お兄ちゃん”になる気はない。


『……あと3ヶ月か』

 今日は5月2日。3ヶ月後の8月2日は沙羅の母、葉山美琴の命日だ。あの悲劇から今年で10年になる。

沙羅はまだ思い出してくれない。同居の挨拶で沙羅に「はじめまして」と言われた時にどれだけ叫びたかったか。

本当は“はじめまして”ではないのだと……。
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