he said , she said[完結編]
彼にはもう欲がないんだと、ほどなくして分かった。
先輩社員に彼のことを聞いたら、早くに奥様を病気で亡くしていたことを知ったの。

そのせいもあってか、すべてを達観していた。深い悲しみを経験したからか、もう人生を一周も二周もしてしまっているようだった。
ただ好奇心がある、すべてのことを面白いと見ている。

そんな彼だから、わたしは好き勝手に仕事のグチやら会社の人への文句やら喋り散らしていたのよ。
だんだん自分がお釈迦様の手のひらの上で暴れてるだけの孫悟空に思えてくるまで。

そして彼は懐が深いだけじゃなくて、恐ろしく洞察力が鋭い人だった。
「⚪︎⚪︎さんて、なんであんなに言われっぱなしでへらへらしてるんですかね。見てるとイライラするんです」
ボソりと彼。「⚪︎⚪︎さんは負けるが勝ちってことを知ってるんだよ」

彼といると自分の底の浅さやら視野の狭さを思い知ったけど、それさえ不快じゃなかった。
だからといって彼がわたしを否定することはなかったから。
< 69 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop