エリートなあなた


絵美さんはずっと分かっていたんだ…。それでも威勢よく、仕事のノウハウを教えてくれたの?


そっか。…彼女のデスクに凭れている課長はそれを案じて――生意気な後輩へ親切にエールをくれたのね。



『会社は個々の能力や素質を発揮する集合体――すなわち、何かの力を必要とされて選ばれたからには奉仕しなさい』


父から就職前に言われたこの言葉の意味が、分かっているようで分かっていなかった…。


「す、みませ…っ、」

謝罪を紡ぎ出すよりも早く込み上げる思いに負け、ツーと頬を涙が濡らしていた。


涙腺が視界をぐにゃりと歪めていく中で、それ以上は何も言えなかった。


泣く資格のない女の涙を見せてはいけない。そのために俯いて、専務秘書室から出ようとドアへ向かったのに。


「待って」と聞こえた刹那、後方からパシリと右手首を掴まれた。


ドアまであと一歩のところで俯いていると、ポロポロ零れていく涙が惨めな気分を誘う。



「ごめん、…勝手なことして」

背後から届いた切なげな声音に、フルフルと左右に頭を振るのが精一杯。


課長が謝る必要はどこにもない。アナタの大切な人である、絵美さんの好意を踏みにじっていたのは私なのだから。


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