エリートなあなた


それでも本宮へ到着すると、どちらともなく手を離してしまっていた。



あつたの杜と称される、緑に囲まれた社殿は威厳と優しさが共存する場所に感じた。



参拝者は普段よりも少ないそうだけれど、それでも多くの人が熱心に祈っている。



その中を無言で進んでいた彼は、拝殿を眺めて感慨深げな表情を見せた。



「久々だよここへ来たの…。

それだけ名古屋から遠のいていたんだな」


「そう…、」


横顔を窺っているとどうしても言葉が見つからず、ただ同調しか出来なくて。



北風の冷たさと木々の揺れる音を肌で感じながら、遠くを見つめて佇む彼を静かに隣で見守った。



こうして熱田神宮へやって来た理由――それは彼が自身に課した、大切な決めごとがあるから。



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