エリートなあなた


もう当たり前となった20階でエレベーターを降りると、セキュリティを潜り抜けて試作部のフロアへ足を踏み入れる。



そこはいつもと変わらない、バタバタと慌ただしいお馴染みの空間が広がっていた。これもまた私にとって日常の風景。




「それじゃあ吉川さん、本当にありがとうございました!」


「いいえー」


岩田くんはカバンをデスクチェアへと軽く放り、ガラス材料だけは大事に抱えて研究室へ走って行った。



必死だった自分の新人時代が懐かしくて、フッと小さく微笑んでから席へ着いたところ隣の後輩に呼ばれる。



「お疲れさまです。松岡さんから伝言ですが、至急ミーティングルームまで来て欲しいそうです」


「そうなの?ありがとう」


お礼を言って携帯をジャケットの外ポケットへ沈め、足早に元来た道を通って奥手にあるミーティングルームを目指す。



松岡さんからのお呼び出しは滅多にない。そして軽く注意が入ったとしても、お怒りが飛ぶこともほぼない。



――この件で久しぶりの雷が落ちるのだろうか…。仕方ないな、と嘆息して到着した部屋のドアの前。



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