エリートなあなた
気持ちの狭間で
あれよあれよと辞令が交付され、試作部への異動が決定して早1週間。
専務の第2秘書の席は、私の3期上の先輩が暫く埋めることで決定。
そして新入社員も1名入るとのことで、補充は追々考える予定だそう。
実感がないまま始まった引き継ぎ業務も、下っ端の私は結局ほぼ伝達事項がない。
そのためデスク周りを片づける以外、別段いつも通りの日常がすぎていた。
――若干1名の不機嫌さだけを除いては。
「あーむかつくっ!真帆ちゃん取られた!」
「すみません、」
秘書課最後の出勤のため、絵美さんと2人専務秘書室で仕事をする現在。
ファイル整理をする私の隣のデスクで、カーペット張りの床をダンダン蹴る彼女には謝る外ない。
「いいのよ真帆ちゃん?悪いのはぜーんぶ修平だ・か・ら!」
こちらを見て、ニコリと微笑んではくれたけれど。その表情はどこか黒いものを漂わせている。
「怒りが収まらない」と、手中の書類をグシャリと握り潰したのがその証。
さらにはゴミ箱めがけて、ピッチャー紛いのフォームで投げ入れたのだ。
普段はクールに仕事をこなす絵美さん。苛立ちを見せたのは、実はこれが初めてかもしれない。