エリートなあなた
すると、泣き始めてしまったのは阿野さん。どうやら、感情的にした行為の重大さに気づいたらしい。…泣きたいのは、こちらなのに。
「事情もはっきりしたことだし、これで解散!」
“はいお疲れさま!”と付け加えて、ピリリとした空気を刷新したのもまた課長だった。
助かったと言うように、周囲を取り囲んでいた人々は皆、足早に帰宅の途について行く。
「ちょっと話あるから、来てくれる?」
「…は、いっ、」
黒岩課長の言葉に頷いた阿野さん。同じく私もその後に続いて、エレベーターに3人で乗り込んだ。
いまだ泣きじゃくる小さな彼女を見ていると、とても言葉をかける勇気も出なかった。
重い雰囲気漂うエレベーターが止まったのは、総務部のある12階。彼女を促す課長に私も続こうとすれば、手でスッと制される。
「吉川さんは手当てして来なさい」と。2人の姿を見送るより早く、扉が静かに閉まった。
手当てするまででもないと、秘書課の階のボタンを押す。ぼんやりしている私を乗せ、機体がまた上昇を始める。