無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】

黒塗りの高級車


(どうして、こんなことになっちゃったんだろう)

 円形の飾り窓の向こうから、風情ある鹿おどしの音が聞こえてくる。
 今まで近づいたことすらなかった高級料亭のお座敷。生まれて初めて振袖を着て、座布団の上で居心地悪そうに正座をしながら、由惟(ゆい)は心の中でため息をついた。

「あら、浮かない顔ね。緊張してる?」

 由惟の右隣に座るご婦人が、緊張で強張った由惟の顔を覗き込んで優雅な微笑んだ。
 水色の上品な訪問着が似合うこのご婦人は、今日初めて会ったばかりだ。名を「生田目(なばため)みどり」という。
 市内にある総合病院、生田目総合病院の院長夫人だ。医療法人の理事として、病院の経営にも深く関わっているらしい。

 このあり得ない状況で、みどりは嫣然とした笑みを浮かべている。
 やっぱり上流階級に属する人は、胆力からして庶民とは違うんだろう。自分が使用人同然の暮らしを強いられている底辺だから、ことさら強くその違いを感じる。

 一方で、みどりの夫、生田目総合病院の院長・生田目寛二は、由惟の左隣で落ち着かない様子で顔を上げ下げしていた。挙動不審すぎるが、人間らしいその態度が今の由惟は共感できる。

「……だって、代理でお見合いですよ?普通のお見合いすらしたことないのに、緊張しない方がおかしいです」
「そりゃあそうよねぇ。でも、そんなに緊張しないで?あなたは娘の代わりにニコニコ笑顔で座ってくれるだけで充分だから」
「そう上手くいくものでしょうか?」
「大丈夫よ!お見合い相手の成澤くんは、娘とは面識ないし。それに由惟さんは娘にそっくりだから!」

 太鼓判を押され、由惟は苦笑いを浮かべた。
 由惟がこの場にいる理由はただ一つ。生田目夫妻の娘・生田目穂乃花として、お見合いに出席するためだった。
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