無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 事の発端は、二時間前。
"おばさま"の命令でお茶菓子を買いにデパートに行く道中、信号機のない横断歩道を渡っていた時に起こった。

 歩く由惟の左手から、黒塗りの高級車がいきなり飛び出してきたのだ。

 車は由惟の前に立ち塞がるように、横断歩道を跨いで停車した。
 歩行者優先だと思って悠々と歩いていた由惟は、驚きのあまり横断歩道の真ん中で立ちすくんだ。轢かれる寸前で、心臓が飛び出しそうなほど拍動していた。

 茫然とする由惟の目の前で、艶々の扉が開く。そこから壮年の男性――生田目寛二が、血相を変えて転がり出てきて。

 てっきり謝罪をしてもらえると思いきや、寛二は「穂乃花!」と目を見開いて叫びながら由惟の肩をガシリと掴んだ。

 えっ……と面を食らったのも束の間。由惟は抵抗する隙もないまま、車に詰め込まれた。
 もしかして誘拐?と恐怖で震え、助けを求めることもできない中、連れてこられたのは今いる高級料亭が併設しているホテルだった。

 そこで由惟は、生田目夫妻の娘・穂乃花に間違われて連れてこられたことを知ったのだった。

 冷静なみどりの指摘によって、由惟が別人であることはすぐに判明した。
 人騒がせな、と眉をひそめつつも、お詫びとしてホテルのラウンジでご馳走してもらったら、それで気は晴れた。

 あまり遅くなると"おばさま"に折檻されてしまう。早めに帰ろうと高級コーヒーを一気に飲み干そうとした時だった。
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