無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「色々事情があって家を出たんです。仕事でもご迷惑をおかけしてしまって、すみません……」
「いやいや、無事でよかったよ。社長と静子さんに無理やり働かされてたのはわかってたから。何もしてあげられなくて申し訳なかったけど……」
「いえ、気にしないでください。それより藤野さんも父と母の墓参りに来てくださったんですか?」
「会社を辞める前に君のお父さんに挨拶をしておこうと思ってね。僕はあの人に技術の全てを教わったから」

 二人の話の意味がわからない。
 穂乃花の両親は今もなお生きている。なんなら父親の方は昨日も会ったくらいだ。
 何がどうなっているんだ。
 背中に冷や汗が滲むのを感じながら、真紘は耳をそば立てた。

「……横井工業を辞めるんですか?」
「ああ。医療器具メーカーのホズミってあるだろう?そこから引き抜きの話があって、受けることにしたんだ。社長たちのやり方にはこれ以上ついていけなくてね。利益最優先で限界以上にコストを削減して……あんな質の低いものを売りつけるような会社には、もういたくないんだ」

 医療器具のホズミというと、生田目病院にも多数の器具を卸している大手医療器具メーカーだ。
 となると横井工業は……横井医科工業のことだろうか。医療用の針を製造する町工場だ。以前は質の良い製品を製造していたようで、生田目病院でもかなりの数の針を発注していたらしい。
 だが、それも過去の話。現在の横井医科工業が製造する針は、脳神経外科のマイクロ手術ではとても使い物にならないクオリティだ。真紘が部長に就任した際、速攻で仕入先を変えた。他の科は惰性で発注を続けているところもあるようだが、真紘からすれば信じられない。正気を疑うレベルだ。
 
 実際問題、横井医科工業の業績は右肩下がりらしい。藤野と呼ばれた男の話とも合致する。
 だがなぜ、そんな小さな会社の人間――しかも経営層でもない一般社員と、穂乃花が関わりを持っているのか。そもそも穂乃花は病院の経営に一切関与していない。知り合う機会などあるはずがないというのに。
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