無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 真紘の母が帰った後、ボストンバッグと裁縫箱を部屋に置いただけで由惟の引越しは終わった。
 特にやることもなく、由惟はリビングに置いてあるソファにちょこんと腰掛けた。ソファは横たわったらそのまま眠れそうなほど広い。

 お客様気分で見渡したリビングは、一言で称すると「何もない」だった。
 まず、余計なものが一切置かれていない。生活に必要なものは揃っているけれど、とりあえず置いてあるといった様子で、その人らしさが感じられない。行ったことはないが、マンションのモデルルームはこんな感じなんだろう。ひどく無機質な空間だった。

「そんなにお仕事が忙しいのかな……」

 ここまで生活感がないと、そもそも家の滞在時間が少ない気がした。帰って寝るだけの生活なのだろうか。病院に缶詰という真紘の言葉は、正しく言葉通りの意味なのだろう。

 滅私奉公の精神で働く真紘の姿が垣間見えると、第一印象ほど悪い人ではないように思えてくる。いや、彼の失礼な言動を許したわけではないけれど。

「……お夕飯でも作ろうかな」

 きっと疲れて帰ってくるだろうから、精のつくものでも作って彼を労おうか。

 キッチンに一通りの調理道具が揃っていることは確認済みだ。ハウスキーパーには食事を作ってもらっていないようで、冷蔵庫は水とビール以外入っていなかった。
 由惟はさっそく買い物へと出かけた。
< 22 / 127 >

この作品をシェア

pagetop