無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】

名前のないキス

 食事の席についた由惟の目の前には、こんがり焼けた鶏の手羽先が置かれていた。手羽先の横にはプチトマトとブロッコリーのグリルも脇に添えられていて、彩りも豊かだ。

「おぉ〜」

 とっても美味しそうで思わず感嘆の声を上げると、白のカットソーを腕まくりしてキッチンに立っている真紘が得意げに顎をそびやかした。

「普段は時間がないからやらないだけだ。俺の家事能力は問題ない」
「別にそこは疑ってないですから」

 ふふんと鼻を鳴らす真紘がかわいらしくてつい笑ってしまう。そのうちに他の料理も運ばれてくる。トーストしたフランスパンと、サーモンアボカドのマリネ(これは由惟が作った)をテーブルに並べると、真紘は缶ビールを両手に持って戻ってきて、由惟の向かいに座った。
 二本のビールのうち、一本は既に開封済みだ。待ちきれなかったらしく、手羽先を焼いている間に真紘はもう飲み始めていた。ちなみに由惟は下戸なので、ご相伴は遠慮した。
 
 いただきますと手を合わせ、早速手羽先にかじりつく。パリッと音がして、口の中に肉汁が広がった。味付けに使われたハーブソルトが香ばしく、いいアクセントになっている。

「とってもおいしいです」
「そりゃあよかった」

 真紘の声が揚々としている。
 今日の真紘はアルコールも手伝ってか、いつもの伶俐さがなりをひそめていて、表情豊かだ。仕草や言動がかわいらしく、逐一キュンとしてしまう。
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