無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「……あれって、チューリップか?」

 しっとりとした沈黙の中、左半身に触れる真紘の体温を感じていたら、そんな呟きが聞こえてきた。

「そうですよ。香りは弱いですけど、リラックス効果があるんです」
「へぇ、詳しいな。好きなのか?」
「バレました?実はお花の中で一番好きなんです。小さい頃は、母と一緒に毎年育てていました」

 生前の母はガーデニング好きで、今はなき実家の庭にはチューリップ専用の花壇があった。毎年秋になると球根を植え付けて、母と一緒に毎日芽が出てないか庭に確かめに行っていた。

「でも黄色いチューリップの花言葉はよくない意味もあるんで、ちょっと残念なんですけど……」

 黄色のチューリップの花言葉は、報われぬ恋。思い出した時、心に刺さるものがあった。

 恋かどうかはともかく、由惟は期限が来たら真紘の元を去らなくてはいけない。
 
 自分は、名前や素性の何もかもを偽って真紘を騙している。どんなに彼を想っていても、そんな卑怯な自分が彼の隣に居座ることは許されない。

 わかっているのに、いつか来る別れを思うと胸が軋んで切なくなった。穂乃花と呼ばれるたびに、私は穂乃花じゃないと心が叫んでいた。

(そんなこと、思っちゃいけないのに)

 せめて今だけは隣にある温もりを感じていたくて、由惟は目をつぶって現実から逃避した。
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