無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 呆れまじりに笑われながら、一緒にエスカレーターを目指していた時だった。

「……うぐあぁぁッ!」
 
 背後から断末魔のような呻き声が突如聞こえてきて、由惟は反射的に振り返った。
 
 通路の真ん中で壮年の男性が頭を抱えるようにして倒れている。
 かたわらでは、男性の妻と思しき女性が顔を真っ青にして口元に手を当てている。高校生くらいの女の子も「お父さん?!お父さん?!どうしたの?!」と悲鳴をあげていた。
 人混みがそこだけぽっかり空いていて、立ち止まった人々はその様子を遠巻きに眺めている。

 何が起きたのか分からず呆然とする由惟とは対照的に、真紘はすぐに動き出した。持っていた荷物を手放し、倒れている男性の元へ一目散に駆け寄っていく。

「医者です。どうされました?」
「しゅ、主人が、い、いきなり頭を押さえて、倒れて……」
「頭……」

 突然の事態にも真紘は冷静に対処していた。
 倒れた男性を仰向けにし、肩の辺りを強く叩き出した。

「村岡さん!村岡さん!!聞こえますか?」

 いやに静まり返った店内に真紘の大声が響く。倒れている男性の名前を何度も強く呼びかけていると、声に反応して男性が顔を歪めたのが見えた。
 
 よかった、生きている――
 由惟だけでなく、見守る周囲の全ての人間がそう思ったことだろう。だが安堵したのも束の間、真紘が険しい顔をして、こちらを振り向いた。
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