早河シリーズ第四幕【紫陽花】
早河の元上司である警視庁捜査一課の上野警部はその殺人事件の捜査担当をしている。上野の部下の小山真紀が捜査で忙しいのは当然だろう。
(※次作、第五幕【揚羽蝶】の事件)
「便箋に指紋や差出人の痕跡が残っていれば、鑑定が可能か相談してみるとは言ってくれたけど、これだけでは警察は動いてくれない」
『そうだな。決定的な被害でもないと警察が本格的な捜査をすることはない』
「何か起きてからでは遅いのにね」
早河は封筒の山を数秒見下ろし、小さく息を吐いた。
『玲夏はこの手紙の差出人が誰かを俺に突き止めてほしいんだな?』
「そう。やっぱり気味が悪いのよ。社長は大事《おおごと》になる前に危険な芽は摘んでおく主義の人だから、できることならこの手紙の差出人を突き止めて差出人と話をつけたいの。お願いできる?」
『わかった。引き受ける』
早河は玲夏の依頼を快諾した。玲夏は安堵の表情で力が抜けた身体をソファーに預ける。
「よかった。引き受けてくれて」
『お前が困ってるなら助けるのは当然だ』
なぎさが便箋を戻した封筒の束を玲夏に返そうとしたが、玲夏はそちらで預かってくれと言って受け取りを拒否した。
『でもどうして俺なんだ? 探偵なら他に大手の探偵事務所がいくらでもあるだろ』
「社長があなたが一番信用できるって言うから」
『あの吉岡さんがねぇ。俺はあの人には嫌われてるものだと思ってたが』
「社長はあれでもあなたのことは認めているの。見ず知らずの探偵に頼んで、どこかに情報が漏れると厄介でしょ。女優にとってスキャンダルは命取りになるからね」
『俺なら安心ってことか』
「そういうこと」
早河と玲夏の気心の知れたやりとりをなぎさは黙って見ているしかなかった。
(※次作、第五幕【揚羽蝶】の事件)
「便箋に指紋や差出人の痕跡が残っていれば、鑑定が可能か相談してみるとは言ってくれたけど、これだけでは警察は動いてくれない」
『そうだな。決定的な被害でもないと警察が本格的な捜査をすることはない』
「何か起きてからでは遅いのにね」
早河は封筒の山を数秒見下ろし、小さく息を吐いた。
『玲夏はこの手紙の差出人が誰かを俺に突き止めてほしいんだな?』
「そう。やっぱり気味が悪いのよ。社長は大事《おおごと》になる前に危険な芽は摘んでおく主義の人だから、できることならこの手紙の差出人を突き止めて差出人と話をつけたいの。お願いできる?」
『わかった。引き受ける』
早河は玲夏の依頼を快諾した。玲夏は安堵の表情で力が抜けた身体をソファーに預ける。
「よかった。引き受けてくれて」
『お前が困ってるなら助けるのは当然だ』
なぎさが便箋を戻した封筒の束を玲夏に返そうとしたが、玲夏はそちらで預かってくれと言って受け取りを拒否した。
『でもどうして俺なんだ? 探偵なら他に大手の探偵事務所がいくらでもあるだろ』
「社長があなたが一番信用できるって言うから」
『あの吉岡さんがねぇ。俺はあの人には嫌われてるものだと思ってたが』
「社長はあれでもあなたのことは認めているの。見ず知らずの探偵に頼んで、どこかに情報が漏れると厄介でしょ。女優にとってスキャンダルは命取りになるからね」
『俺なら安心ってことか』
「そういうこと」
早河と玲夏の気心の知れたやりとりをなぎさは黙って見ているしかなかった。