早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
電車に乗って二人が向かった先は品川駅の近くにある、しながわアクアリウム。入場券を買って施設内に入ると、涼しい冷房の空気が二人を迎えた。
『打ち合わせ時間までにぐるっと一回りしようか』
「はいっ! 水族館なんて久しぶり」
はしゃぐ美月を見て連れて来て良かったと松田は思った。彼女の泣き顔は見たくない。
ここが大都会の中心部であることを忘れてしまうほど、魚達が作り出す海のイリュージョンに美月と松田は酔いしれる。
館内の探索を終えた二人は水族館の係員とイベントの打ち合わせをした。打ち合わせは30分程度で終わり、彼らは外に出た。
冷房の効いた水族館から一歩外に出ると、暑い太陽がアスファルトを照り付ける。すぐそこは品川駅だ。
「水族館ってのんびりできていいですね」
『だろう? 俺は考え事したい時によく水族館に行くんだ。ひとり水族館ってやつ』
「ひとり水族館、いいですね。私もこれからやろうかなぁ」
水族館から品川駅までの道のりを美月は松田より少し下がって歩いていた。
どうして泣いていたのか彼は何も聞かない。何も聞かず、準備の手伝いを名目にして水族館に連れて来てくれた。
この人は本当に優しい。どうしてここまで優しくしてくれる?
「先輩……優し過ぎますよ……」
美月が足を止めた。松田も歩くのを止め、振り向いた。
『俺が優しくするのは好きな子にだけ。俺だって誰にでも優しくはしないよ』
「そんなに優しいと……いつか利用されちゃいますよ?」
『いいよ、それでも。好きな子に利用されるなら嬉しいものだ。見向きもされないよりはマシ』
松田は美月の肩を抱き寄せ、両手で彼女を抱き締めた。美月は彼を拒まない。
「利用されて傷付くのは先輩なんですよ……?」
『好きな子が傷付く姿を見るより自分が傷付く方がいいよ。もし好きな子が俺の優しさを利用して笑ってくれるなら、俺はそれでいい』
どうして? どうして貴方はそんなに優しいの?
貴方に優しくしてもらえるような女じゃないのに。貴方が思っているような、心の綺麗な女じゃないのに。
『君を悲しませているのは彼氏だろ?』
美月を抱き締める松田の腕に力がこもる。その力強さに心臓が痛くなった。
(ダメ。ダメだよ……優しくしてくれるからって、優しさに甘えちゃいけない)
でもこの腕を振り払えない。彼の温かな優しさに包まれていたい。
(苦しいよ……どうしたらいいのかわかんない)
恋人の隼人に感じている漠然とした不安
夏が訪れると思い出す佐藤との悲しい恋物語
見えない影である莉央への嫉妬
自分はこんなにも醜い人間だったと思い知らされる。
『俺なら君を傷付けたりしない』
松田の指先が美月の涙を拭う。彼女は顔を上げられなかった。顔を上げてしまえば、きっと松田の優しさに甘えてしまう。
『打ち合わせ時間までにぐるっと一回りしようか』
「はいっ! 水族館なんて久しぶり」
はしゃぐ美月を見て連れて来て良かったと松田は思った。彼女の泣き顔は見たくない。
ここが大都会の中心部であることを忘れてしまうほど、魚達が作り出す海のイリュージョンに美月と松田は酔いしれる。
館内の探索を終えた二人は水族館の係員とイベントの打ち合わせをした。打ち合わせは30分程度で終わり、彼らは外に出た。
冷房の効いた水族館から一歩外に出ると、暑い太陽がアスファルトを照り付ける。すぐそこは品川駅だ。
「水族館ってのんびりできていいですね」
『だろう? 俺は考え事したい時によく水族館に行くんだ。ひとり水族館ってやつ』
「ひとり水族館、いいですね。私もこれからやろうかなぁ」
水族館から品川駅までの道のりを美月は松田より少し下がって歩いていた。
どうして泣いていたのか彼は何も聞かない。何も聞かず、準備の手伝いを名目にして水族館に連れて来てくれた。
この人は本当に優しい。どうしてここまで優しくしてくれる?
「先輩……優し過ぎますよ……」
美月が足を止めた。松田も歩くのを止め、振り向いた。
『俺が優しくするのは好きな子にだけ。俺だって誰にでも優しくはしないよ』
「そんなに優しいと……いつか利用されちゃいますよ?」
『いいよ、それでも。好きな子に利用されるなら嬉しいものだ。見向きもされないよりはマシ』
松田は美月の肩を抱き寄せ、両手で彼女を抱き締めた。美月は彼を拒まない。
「利用されて傷付くのは先輩なんですよ……?」
『好きな子が傷付く姿を見るより自分が傷付く方がいいよ。もし好きな子が俺の優しさを利用して笑ってくれるなら、俺はそれでいい』
どうして? どうして貴方はそんなに優しいの?
貴方に優しくしてもらえるような女じゃないのに。貴方が思っているような、心の綺麗な女じゃないのに。
『君を悲しませているのは彼氏だろ?』
美月を抱き締める松田の腕に力がこもる。その力強さに心臓が痛くなった。
(ダメ。ダメだよ……優しくしてくれるからって、優しさに甘えちゃいけない)
でもこの腕を振り払えない。彼の温かな優しさに包まれていたい。
(苦しいよ……どうしたらいいのかわかんない)
恋人の隼人に感じている漠然とした不安
夏が訪れると思い出す佐藤との悲しい恋物語
見えない影である莉央への嫉妬
自分はこんなにも醜い人間だったと思い知らされる。
『俺なら君を傷付けたりしない』
松田の指先が美月の涙を拭う。彼女は顔を上げられなかった。顔を上げてしまえば、きっと松田の優しさに甘えてしまう。