早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 神奈川県警に呼ばれた警視庁捜査一課の上野恭一郎、原昌也、小山真紀は青木渡の死体が発見されたビジネスホテルの部屋に入った。

遺体は運び出されているがバスルームには飛び散った血痕が生々しく残っている。

『頭部を一発殺られてました。相手はプロです』

 神奈川県警本部の年配刑事から所見を聞いた上野は遺体写真を見た。
青木渡は3年前の静岡連続殺人の関係者だ。

当時の上野の印象では先輩であった木村隼人や渡辺亮の影に隠れていた青木は無口でノートパソコンを抱えた目立たない存在だった。

 彼がカオスと関わりがあったとは思いもよらず、しかしそうなると3年前に浮上していた佐藤の協力者は青木だったと考えられる。

 他の刑事から話を聞いていた原が上野を呼んだ。原の手元にはビニール袋に包まれた青木の携帯電話がある。

『携帯とパソコンのデータがすべて消えていました』
『またか』
『はい。パソコンはまったく動きません。携帯も一応電源は入るんですが、初期化の状態でデータは真っ白。携帯のSDカードも抜かれています』

 南明日香の時と同様だ。こんな芸当ができるのはハッキング能力に長けていると言われる犯罪組織カオスのスパイダーしかいない。

 ベッドや床からは染髪された毛髪が見つかった。テーブルに放置されたコンビニの袋には未開封の飲み物やインスタント食品と共に、封の開いたコンドームの袋があった。

使用済みのコンドームはゴミ箱から発見されている。青木の財布にある現金やカード類は手付かずだった。

 ホテルのスタッフの話では宿泊予約が入ったのは昨夜だと言う。男の声でシングルの部屋を二日間借りたいと電話があった。
電話の主が青木本人かはわからないと電話を受けたスタッフは証言した。

 青木が女を連れてチェックインしたのは午後7時頃。女は大きなサングラスをかけていて顔はよく見えず、見た目は20代くらいの派手な雰囲気の女だったらしい。

女の姿はホテルのどこにもなく、女がホテルを出ていくところをスタッフの誰も見ていなかった。
< 77 / 171 >

この作品をシェア

pagetop