水晶によって選ばれた私はお飾りの妻です
10.
 上手くできた髪紐で少し長めの髪を括り、朝食を取りに食堂まで足を運ぶと、居心地悪そうにキョロキョロと周りを気にしながら座るユーリスの姿があった。
 
 昨日部屋から出てきたということもあり、きっと研究がひと段落ついたのだろう。
 
「おはようございます」
 ユーリスの対面に置かれた椅子に腰を下ろして、彼の顔を見るとなぜかソワソワと視線をあちらこちらへと飛ばしながら何かを探していた。
 おはようの返しなんておはようでいいと思うのだが、ユーリスが探しているのは私へかける言葉だとも限らない。気にはなるけど……まぁ、気にしたら負けのゲームだと思えばなんてことはない。
 出された食事に手をつけて、やっぱりこの屋敷のご飯って美味しいななんて思いながら食事をとる。
 
 昨日、髪紐を作り終わった後、さっそくそれぞれの苗に少しずつ、もらった栄養剤を撒いてみた。
 液体は無色透明でサラサラとしており、まるで水のようだった……のだが、去り際に撒いた場所の植物だけ妙に成長していたような気がするのだ。おそらくは目の錯覚とかそんなものだろう。後は考えたくはないが、ストレス。あんまり溜まっている気がしないが、一応私も人の子だ。ホームシックなるものにならないとも限らない。
 ……ということで昨日は早めに寝て、今日確認してみるつもりである。
 
 枯れてないといいんだけど……。
 
 早く見たいと気持ちが焦り、食事を運ぶ手と咀嚼する口はドンドンと加速する。
 
「ごちそうさまでした」
 まだ食事中のユーリスを置いて、立ち上がると無言を貫いていた彼はやっと口を開いた。
 
「ルピシア!」
「なんでしょう?」
「昨日はその……すまなかった。重かっただろう?」
「あまり気にはなりませんでした」
 
 そんなに細い身体で重いだなんて、都会にいる若い女性みたいなことを言っているのかと思わなかった訳ではない。
 だが確実にその言葉へ対する最適な回答が『君の身体は羽根のように軽かったよ』ではないことを瞬時に悟った私から出たのは何とも中途半端な言葉だった。
 
「そ、そうか……」
 だから目の前のユーリスがその後の言葉に詰まっているのも仕方ないかなぁなんて思う。
 
「えっと、その……ルピシアは髪、結べるんだな」
「え、あ、はい」
 とりあえず話を続けることにしたユーリスは、私の髪を括る髪紐に目をつけたらしい。
 似合うなとかじゃなくて、結べるんだなってところがなんとも言えないが、コミュニケーションを取ろうとしてくれているのだということはわかる。……となれば私も何かを続けるべきだろう。
 
「ユーリスは普段は髪、結ばないんですか?」
「え?」
 
 ん? 今、髪の話題だったよね? なんで聞き返されるの?
 
 驚いた顔のユーリスと見つめ合いながら首を傾げると彼も続いて首を傾ける。
 
「えっと、昨日ユーリスの部屋で髪紐を見たんですが、研究の時だけ結んでるのかなと思って」
「紐はある。だが自分で髪を結んだことはない」
「それは……」
 
 まさか紐だけあって結べないとは……。
 大方自分でも髪が邪魔だと思うことがあって、用意したはいいがあまりに髪がサラサラすぎて上手く結べなかったとかそんなところなのだろう。
 
「……結んであげましょうか? 妹の髪を結ってあげてたので上手いですよ?」
「……………………知っている」
「それも水晶で見たんですか?」
「……ああ」
 
 結ってもらうためにユーリスは髪の話題を切り出したんだろうか?
 いや、まさか。たまたまだろう。
 
 結ってもらうことに慣れているのか、微動だにしないユーリスの髪を彼から差し出された櫛で梳かして一つにまとめる。
 髪型が私と同じになってしまうのだが、これが一番シンプルでなおかつやりやすいのだ。それに妹達なら編み込みとかを入れてあげるのだが、ユーリスは喜びそうにないし……。
 
「出来ましたよ」
「今回は髪、編まないのか?」
 
 今回は、って何だろう?
 私がユーリスの髪を結ったのは初めてなのだが、いつもは編んでもらっているのだろうか?
 
「編んだ方がよかったなら、解いてやり直しますが……」
「いや、いい」
「そうですか?」
 
 編む、編む……それは三つ編みとか四つ編みのこと? それとも編み込み?
 いや、まぁ顔立ちがいいからどれでも似合うだろうが……。
 
 とりあえず今日はこれでいいと言われたからこのままにしておくが、もしも今度があるならその時はユーリスに似合う髪を編んであげよう。そう思いながら、食堂にユーリスを残して花壇の部屋へと向かうのだった。


< 10 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop