ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
授業
お弁当を持って目的の裏庭に出たが、ベンチは人で埋まっている。四人は、大木の木陰になっている場所へ移動した。
クレアが持参した大判のブランケットを芝の上に敷くと、そこでお弁当を食べ始めた。
落ち着いてきた頃、クレアは二人に問いかけた。
「侍女科に来てから二週間が経ったけど、授業やクラスには慣れたかしら?」
「今は、皆についていくだけで必死ね」
「そうね。私もそれだけで精一杯だわ」
エリーとルイーズが答えると、クレアが心配そうに二人に告げた。
「そろそろ疲れも出てくるころだから、お休みの日はゆっくり休んでね。それに、侍女科は体力勝負だから、これからは体力をつけることも考えた方が良いわ」
ルイーズとエリーはクレアの言葉に頷いた。
「そう、それそれ! 私もいつもマノン先生に言われてたわ。やっぱり姉妹ね。言うことも同じだわ」
ミアに発言に、クレアは苦笑いをした。
クレアの表情を見たエリーが、「何となく似ていると思ったら……。姉妹だったのね」と呟いた。
「そうなの。隠してるわけではないんだけど……。ああ、それから、姉も二人を心配していたわ。疲れが出るころだから、体調管理には気をつけてほしいそうよ。これから、家事以外の授業も増えるから、何かあったら相談してほしいとも言っていたわ」
「そうなのね、ありがとう。何かあったらマノン先生に相談するわ」
ルイーズは苦手な御髪の整え方について、早速マノン先生に相談しようと思うのだった。
♢
お昼を共にした日から、四人は毎日のように一緒に過ごすようになった。
授業の話から自分の話まで、様々なことを語らった。そのため、打ち解けるのも早く、敬称をつけずに呼び合う仲になったようだ。
今日のお昼休憩では、どうやら自分たちの将来について話しているようだ。
「クレアは、近くに良いお手本がいるし、将来はマノン先生のような教員を目指しているの?」
ルイーズがクレアに問いかけた。
「教員は目指していないわ。姉に憧れて侍女科に入学はしたけれど、将来は王宮で働きたいと思っているの。私は男爵家の次女だから、一人で生きていく道も視野に入れないとね。でも、家族からは良い相手がいたらすぐにでも婚約するようにと言われているの」
「そう、王宮……。もうそんなことまで考えているのね」
感心するかのように頷くルイーズの隣で、エリーもミアに尋ねていた。
「ミアも、卒業後については決めているの?」
「私は商会の一人娘だから、将来はお婿さんを迎えて、商会を継ぐように言われていたの。私も、ずっとそのつもりでいたけど……。弟が生まれてからは、自由に決めて良いって言われて、今悩んでるところ。でも、弟が大きくなるまでは、私も商会の手伝いをしたいな……」
「そう......。その願い、叶うといいわね」
エリーの言葉にミアは深く頷いた。
その後、クレアも二人に同じ質問をした。
「私は、まだ先のことは何も決めていないし決まっていないわ。でも今は、侍女科の授業がすごく楽しくて、本当にここへ来て良かったと思っているの」
「私は、しばらくの間は侍女として働くことが決まっているけれど、ゆくゆくは祖母のハーブ園で働きたいと思っているの」
晴れやかな顔のルイーズと、真剣な顔のエリー。
「そっか」
「そうなの」
友人の口調や表情から、ミアとクレアも思うところがあるようだ。四人それぞれが、自分にしか分からない感情や背景を抱えている。
皆、それ以上のことは何も語らず、裏庭を後にした。
♢
午後の授業では、お化粧と髪の整え方を学ぶようだ。
二人一組になり練習をする。授業内容の説明を聞いたルイーズは、マノン先生に質問をしていた。
「マノン先生、私、どうしても髪を高い位置できれいに結うことができないのです。なにかコツはありますか?」
「そうですね。それではルイーズさん、一度普段通りに髪を結わいてもらえますか」
ルイーズはペアのエリーに断りを入れると、髪を結い始めた。
「ルイーズさん、もう少し髪をしっかり持ってください。そうです。それからブラシの持ち方ですが、後髪と横髪を上に持ち上げる時にブラシも動かしてください。そうです。そのまま髪を手の平の中に集めるように引き上げてください。良いですね。どうですか? コツは掴めましたか?」
「はい、ブラシを縦や斜めにすると、髪が扱いやすいです」
「そうですね。他にも分からないことがあったら、すぐに聞いてくださいね。それから髪質は人それぞれですから、色んな方の髪の毛で、試してみると良いですよ」
「はい、ありがとうございます」
ルイーズは、どうやらコツ掴んだようだ。ペアを替えながら何人もの髪を結わいていく。集中すると、少し周りが見えなくなるようだが、クラスメイトは苦笑いしながらも、みんな優しく対応してくれているようだ。
♢
就寝前、ルイーズは自室の机にLノートを出して、なにやら考え事をしていた。
「三人とも、卒業後の進路についてしっかり考えているのね」
独り言を呟きながら、何やらノートに書き込んでいく。
「これから、お茶会でのサーブの練習があって、淑女科のお茶会で実践ね」
新たな目標のようだ。夢中で右手を動かしながらノートに文字を刻んでいく。
最近では、窓からのぞく月の光にも気づかないほど没頭していることが多い。時間を忘れてただひたすらに筆を走らせる。
ふと我に返ったルイーズが、窓の外を見上げると、いつのまにか夜が深まっていた。