ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
(親子だからといって、一から十まで理解するなんて難しい話だわ。ただ、婚約を解消したいなんて言い出した時点で、恋愛がらみだとは思うけど……)
ルイーズが男爵の気持ちを慮っていると、ルーベルトが彼に話しかけた。
「今は様子を見るしかないだろう。婚約に関しては、本当にその相手が原因なのかも定かではない。下手に刺激をしたら何をするかわからないぞ」
「ああ、そうだな……」
「白紙にする手続きはこちらで進めるから、オスカーにはそのことだけを伝えておいてくれ」
「わかった、必ず伝える。婚約のことといい、あいつの態度の悪さといい、本当に申し訳なかった。書類の件、よろしく頼む」
男爵は深くお辞儀をしながら謝罪した。
「承知した。そこは心配するな。今は下手なことをせず、オスカーを見てやれよ」
「ああ……」
男爵は、がっくりと肩を落とし、力なく返事をしてその場を後にした。
ルイーズとルーベルトは、その姿を黙って見送ることしかできなかった。
♢
「ルイーズ、帰ってきてそうそうすまなかったな」
「いえ、大丈夫です」
「私とジャンで決めた二人の婚約が、このような結果になってしまったこと——本当にすまなかった」
「謝罪は受け入れます。ですから、お父様も気にしないでください。私がもう少し気遣っていれば、オスカーの変化にも気づくことができたかもしれません」
「いや、ルイーズは十分良くやってくれた。ジャンからも聞いていたんだ。オスカーの勉強を見たり、身の回りの世話をしているとな。それを聞いて、安心していた。それに、家では手伝いもして、弟妹の面倒も見てくれている。ジャンには偉そうなことを言ってしまったが、私も反省せねばなるまい」
父親から労いの言葉をかけられるとは思ってもみなかった。ルイーズは、心につかえていたモヤモヤが、少しだけ解消されたような気がした。
今なら父親に言えるかもしれない。貴族令嬢としては、許されることではないかもしれない。だけど、どうか許してほしい。ルイーズは、そんな気持ちで父親を見つめた。
「お父様、お願いがあります。しばらくの間、婚約はしたくありません。それからどうか少しだけ、私にこれからのことを考える時間をください。お願いします」