戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 扉を開けると、一口サイズのサンドイッチが数種類載ったトレイを渡される。


「今日は疲れたでしょう。こちらを召し上がって、おやすみください。浴室を使われる場合は、あちらの扉から出て左手にございます」

「何から何までありがとうございます」

「空いたトレイはキッチンに置いてください。ルーカス様のものとまとめて片付けますので」


 エリオットは「では、おやすみなさい」と言って扉を閉めた。

 夕飯を食べ損ねていたので、軽食は素直に嬉しい。
 ほっと一息ついたら急にお腹が空いてきた。

 シルファはありがたくサンドイッチを完食し、キッチンにトレイを持って行く。ご丁寧に『返却はこちら』と書かれたワゴンが置いてあったので、素直に甘えることにする。

 そのまま浴室を借りてさっとシャワーを済ませ、温風機を使用して髪を乾かす。

 湯を沸かすにも、こうして髪を乾かすにも魔導具が使われている。
 魔導具のおかげで生活は随分と便利になったが、それが当たり前だとは思わないように気をつけている。魔塔で働くシルファは、一つの魔導具ができるまでの過程をよく知っている。たくさんの人の手を介し、使用者の手元に届くのだ。それはとても尊いことである。

 寝支度を整え、シルファは一瞬戸惑いつつも覚悟を決めてベッドの端に腰掛けた。


「目まぐるしすぎる……」


 ついにデイモンが強行策を取ってきたかと思えば、突然魔塔の最上階に呼び出され、あれよという間に既婚者となってしまった。

 その上、契約結婚だというのに、どういうわけかルーカスはシルファを大切に扱うつもりらしい。彼なりの誠意なのかもしれないが、事務的な夫婦となると思っていたシルファには戸惑いしかない。




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