Anonymous〜この世界にいない君へ〜
もしもあの時、薬物に手を出さなければ。そんなたらればを男は考えてしまう。今頃、普通に会社員をして新しい家庭を築いている未来もあったかもしれないのだ。

(もし、やり直せたら)

俯きながら男は歩いて行く。すると、「こんばんは」と声をかけられた。振り返るとそこには、自分と同じ歳ほどの女と一回りほど若そうな外国人の男がいる。

「横光康成(よこみちやすなり)さんですか?」

若そうな男の問いに男は「ああ、そうだが……」と困惑気味に頷く。しかし、男はこの二人と面識はない。嫌な汗が背中を伝った。

「ここじゃアレですし、場所を変えましょうか」

若そうな男が胸ポケットから何かを取り出す。月明かりがそれを照らし出した。夜の闇と同じ黒をした拳銃である。

男は頰を引き攣らせ、自分が生きて明日の太陽を見ることはできないと察した。






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