薬師見習いの恋
「マリー、まさか」
「言わないで。まだ今は」
 ロニーは仕方ないとばかりに頷いた。
 発病したと思った瞬間、気力が切れてしまうかもしれない。村に帰るまでは、せめて馬をつないだ森の出口にたどりつくまでは。

「月露草は生でも食べられます」
 ロニーは月露草を一本むしりとってかじって見せ、もう一本をむしり、マリーの口元に寄せる。

「食べてください。少しでも体力を回復させませんと」
 マリーはそれを受け取り、かじってみる。

「思ったより甘いわ」
 ロニーはもうひとつを摘んでフロランに渡す。

「これは……普通に食べてもうまいな」
 フロランは感心したようにつぶやいた。

「そのせいで過去に乱獲され、今では希少な植物となっています」
「案外、魔獣もこれが目当てでここにいたりしてな」
 フロランが冗談めかして言うが、マリーベルもロニーも笑えなかった。

「……なおさら長居はしたくないですね」
「そうね」
 マリーベルは答え、近くにミントが生えていることに気がついた。
 しゃがんでミントを何本も摘み、その手に束を抱える。

「また魔獣除けか?」
 フロランの問いに、マリーベルは頷く。
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