薬師見習いの恋
「できることなら魔獣には会いたくないもの」
 立ち上がった直後、ふらついてしまった。

「無理はしないで。ダメなら私がおぶっていきます」
「そんな恥ずかしいこと嫌だわ」
 気丈に笑うマリーベルに、ロニーもまた笑みを見せた。

「早く帰ろう。魔獣が出る前に」
 フロランの言葉に頷き、三人は歩き出した。



 帰路の足取りは、急いた気持ちに合わず遅かった。
 マリーベルがふらつき、なかなか進まないからだ。

「ふたりで先に戻って」
 マリーベルは頼むが、ロニーもフロランも頷かない。

「私だけで戻ったらあなたがたが戻れなくなる。それに恋人を置き去りにした不名誉もついてくる」
 フロランの言葉にロニーが不快気に眉間にしわを寄せた。

「恋人とはどういうことですか」
「詳しくは帰ってからだな」
 ロニーの不満げな表情に、フロランはおもしろそうに目で笑う。

「それならロニーだけでも、薬草を持って先に」
「あなたを置いていけるわけがないでしょう」
 マリーベルに肩を貸してロニーは言う。

「……ごめんなさい、迷惑をかけて」
「まったくです。どれほど心配したと思うのですか」
 マリーベルはしゅんとしてうつむく。
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