薬師見習いの恋



 玄関の前に集まった村人たちは兵士たちに阻まれ、それ以上は進めずにいた。
 村人と対峙する形で最前にアシュトンが立ち、後ろに護衛に挟まれたエルベラータが立つ。

 マリーベルとロニーはその後ろで成り行きを見守っている。
「村民の声を聴きたいと、王女殿下がお出ましくださった。代表者は誰か!」
 アシュトンが声をかけると、村長のゼロムが一歩前に出て来た。その後ろにはルタンとサミエルがいる。

「村長の私が代表させていただきます」
 彼は深々とお辞儀をした。そうすると禿げた頭がはっきりと見えた。

「ゼロムか。体はもういいのか」
 エルベラータが声をかけると、ゼロムはまた頭を下げた。

「はい、おかげさまで」
 ゼロムも一時期は危なかった。
 銀蓮草のエキスを混ぜた薬のおかげで命の危機を脱することができたのだ。

「ご老人を立たせたままで申し訳ない、さっそく主張を聞こう」
「あの森のことでございます。魔獣は退治されたと聞きましたが、一向に立入禁止が解かれません。どうか立入の許可をください」

「説明しただろう、薬草の保護のためにも立ち入り禁止は継続しなければならない」
 アシュトンが思わずといった様子で口をはさむ。

「しかし、このままでは村は冬を越せないかもしれません。疫病で冬の備えができていない家ばかり、収穫期に寝込んでダメになってしまった作物もあります。獣にやられてダメになった畑もあります。あの薬草を売ればかなりの金額になると聞きました。それがあれば冬の備えもできるはずです」

「森の開放はできない」
 王女は迷いなく断言する。
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