薬師見習いの恋
 ロニーが貴族なら、貴族の女性もたくさん見てきたはずだ。
 村の娘は……娘にかぎらず、村の人はたいてい何年も同じ服を着回す。服を新調して作るときにはルスティカの奥様のドレスから流行を聞き、真似して袖山の大きなワンピースを作ったり、スリムに見えるデザインを模倣したり、余った布でリボンを作って飾ったりした。そんな精一杯のおしゃれでは貴族の女性たちの美しさにはとうてい届かないだろう。

 友達に借りたドレスで浮かれていた自分が恥ずかしくなる。
 もとより結ばれることはないとわかっていたはずなのに、心のどこかでは夢見ていた。そうなればいいと願っていた。
 だが、現実はかくも厳しく、絶望的な気分が胸を締める。

「マリー、どうかした?」
 ロニーに尋ねられ、マリーベルは慌てて首をふる。

「大丈夫、ごちそうすぎておなか壊さないか心配になっただけ」
 無理矢理に笑い、またパンを食べた。

「ほんとにうまい。ありがたい」
 フロランが言い、豪快に串焼きにかぶりつく。

「行儀が悪いぞ。そんなんだからいまだに独身なんだ」
「ほっといてくれ」
 モリスが注意するが、フロランは気にする様子がない。
 なんだかマリーベルはほっとした。貴族でもお行儀が悪い人がいるんだ。

 フロランが串焼きを縦にくわえてエルダーフラワーコーディアルをカップに注いでいるときだった。
「お前、それはやめろ」
 見とがめてモリスが言う。
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