薬師見習いの恋
「行儀にうるさいなあ」
「危ないから止めている。レミュールではそれで事故が起きたらしい。子供が飴のついた串をくわえた状態で転び、串が脳みそまで刺さって死んだ」

「おそろしいな」
 フロランは慌てて串を横にくわえ直した。

「いたましい事故ですね」
 マリーベルは初めて聞く話に眉を寄せた。

「子供はなにがあるかわからないから心配です」
「彼は妻子を置いてこちらに来ているのですよ」
 フロランがちらりとエルベラータを見ながら言った。

「ちくちく言うな。罪悪感がわいてくる」
 エルベラータがそっぽを向き、ロニーはくすりと笑った。

 食事を終えた頃、一頭の馬が駆け寄ってきた。乗っているのはアシュトンだった。
 彼は馬を止めるとさっと降りて手綱を引いて歩みより、エルベラータに跪く。

「先に言っておく、私は一個人として来ている。そういうのはやめろ」
 エルベラータは先制して言い、アシュトンは頷いた。

「かしこまりました。ですが我が領地においでくださり、光栄でございます」
「だからそういうのをやめろ」
 エルベラータが顔をしかめると、アシュトンは神妙にまた頷いた。

「しかしこちらではなにかとご不便がおありでしょう。わが屋敷でおくつろぎくださいませ」
「私はこっちのほうが気楽でいい」

「私が気を遣います。狭い我が家のひとつだけのベッドをあなたが使うせいで、私もあなたのお供も土間に寝たんですよ。ぜひお世話になりに行ってくださいませ」
 ロニーがつっけんどんに言う。
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