薬師見習いの恋
「確かにこれは月露草です。たいへん貴重な薬草で、銀蓮草に次ぐ万能の薬と言われています。ですがもう二度と取りに行ってはダメですよ」
 優しい、だが断固とした口調。

「……わかった。もう行かない」
 褒められるとばかり思っていたから、予想外のお叱りにマリーベルはしょんぼりとうなだれる。

「今日はもう遅いから、帰りなさい。これの処理は私がしておきます」
「はい」
 月露草を渡してロニーの家を出ると、とぼとぼと家路を辿る。

 役に立たないどころか怒られた。あの人(エルベラータ)はきっとこんなミスはしないに違いない。
 いや、きっと森に入ったことを咎められても、笑い飛ばしてしまって周りも一緒に笑うのだ。そういう快活さが彼女からは感じられる。

 美しさも身分もなにもかも、マリーベルにないものばかりを持っている。
 マリーベルの口からは、ただため息ばかりがこぼれた。

***

 夜、アシュトンは急遽開催された晩餐会の席にいた。
 エルベラータのための宴席で、ホステスはハンナだ。

 天井から吊り下げられたシャンデリアにはたくさんのろうそくの灯があり、テーブルにあるキャンドルスタンドの光もあって、部屋は明るく照らされていた。

 提供される料理は田舎料理ではあったが、ハンナの心遣いを反映した、素朴ながらも上質なものであった。

「レミュールのような洗練さはございませんが、こちらの料理も味わい深いものでございます。どうぞお召し上がりを」
 ハンナが言うと、エルベラータは鷹揚に頷いた。
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