薬師見習いの恋

***

 マリーベルを地下室に閉じ込めたあと、アシュトンは自室に戻ってため息をついた。

 幼いアシュトンがこのナスタール村に初めて来たとき、彼は不機嫌の最高潮にあった。
 なにしろ首都レミュールから四百八十キロもあり、馬車で八日もかかる。
 まだ五歳の彼には馬車の旅は退屈でただひたすらに苦行であり、しかもこんな田舎に楽しそうなことがあるとは思えなかった。

 見渡す限りの緑。レミュールとは空の青さも空気の匂いも、なにもかもが違う。
 鶏が村を走り回っているのを見たときには驚いた。近くには養豚場があるようで、臭くて鼻が曲がりそうだった。豚は生ごみの処理のために飼われて食料としても重宝されているが、その事情を子供のアシュトンは知らない。

 こんな野蛮なところは嫌だ。子供ながらにそう思っていた。
 母は村の人と気安く言葉を交わしていたが、アシュトンはそうすることができずに母のスカートの陰に隠れていた。
 村の子どもたちを紹介されて「仲良く遊んできなさい」と言われてもどうしたらいいのかわからなかった。

「初めまして、私はタニアよ」
「僕はルタン。お前の髪って赤いな」

「私はリリアン。王都ってどんなところ?」
「ジゼールよ。都会ではなにがはやってるの?」
「サミエルだ、お前って足速い?」
「クレマよ。王都のお菓子っておいしい?」
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