薬師見習いの恋
 彼らの兄弟などほかにも子どもはたくさんいて、好奇の目にさらされたアシュトンはふてくされて黙っていた。
「みんな待って、この子、困ってるよ」

 止めたのはマリーベルで、そちらを見ると彼女はにこっと笑った。
 日の光を浴びた彼女の紺色の瞳は燦然と光を放つ太陽よりも眩しかった。

「ごめんね、みんなあなたと仲良くなりたいの」
「……うん」
 彼女の言葉に、アシュトンは頷いた。

 それ以来、マリーベルは天使だった。
 野を駆けるのも泥だらけになって遊ぶのも、マリーベルが一緒だから楽しいのだ。

 アシュトンは彼女を特別に思っているのに、マリーベルはそうではなかった。ほかの友達と平等に扱われ、それが不満で彼女に当たってしまうことがあった。

『マリーなんか王都に行けばぜんぜん目立たないんだからな! もっとかわいい子はいっぱいいるんだ!』
 マリーベルは悲し気に、そうなのね、と答えるだけだった。

 どうして彼女を傷つけることを言ってしまうのか、当時の自分はわかっていなかった。

 今ならわかる。自分が傷付いたことを彼女にわかってほしかったのだ。と同時に、王都の娘に対抗して自分のためにかわいく装ってくれれば自分を気にしてくれているとわかるのに、という期待があったのだろうと思う。

 だが、そんなことが子供のマリーベルにわかるわけもなく、アシュトンは悲し気な彼女を見てただ罪悪感に打ちのめされた。
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