薬師見習いの恋
「殿下は真にこの村を救おうとしている。その誠を伝えるために俺の命を今ここでくれてやる」
 フロランが剣を振りかぶる。

「やめて!」
 マリーベルは慌ててその手をつかみ、止めた。

「信じる、信じるから!」
 フロランは手を止めてマリーベルを見つめる。
 彼女はただまっすぐにその目を見つめ返す。

 やがてフロランがゆっくりと剣を下ろすと、マリーベルはほっと息をついた。
 彼は結局、脅すだけで彼女の命を奪わなかった。

 だが、自身の命を賭けると言ったときの声は切迫しており、本気なのだと悟った。
 迷ってる場合じゃない。
 マリーベルは自分を叱咤した。

 こうして病気の人を案じる人がいる。ロニーを頼ってばかりじゃダメだ。
 とにかくも薬を作って助かる人をひとりでも増やす。迷いも後悔もそれからで充分だ。

「薬草を採りに行きます。一緒に行ってくれますか」
「もちろんだ」
 マリーベルの言葉に、フロランは目を細め、頷いた。

「魔獣の出る危険な森です」
「はっ! 病気に比べたら楽勝だ!」
 フロランは言い捨て、次いで剣を従僕に向ける。
 予想外の動きにマリーベルは言葉を失った。
< 97 / 162 >

この作品をシェア

pagetop