薬師見習いの恋
「どうか頼む。あの方は国にとって必要な方なんだ。御身も苦しくていらっしゃるのに、薬をほかの者にまわそうとする。そうまでしてひとりでも多くの民を助けようとしている。高貴な方々はいくらでも見て来たが、ここまで民を思う王族など、歴史書を見てもそうそういない!」
 マリーベルはただ言葉を失くしてフロランを見る。

「ひとりでも多く救いたい、その気持ちは私も同じだ。だが、なんとしてもまずは殿下を……この命を賭してでも希望をなくしたくない!」
 小さな窓から差し込む最後の光に、フロランの頬に伝うものがきらりと光った。
 なにがあっても動じなさそうな頑強な彼が流す涙に、マリーベルは言葉の重みを感じた。

「私も……お救いしたいです」
 マリーベルはか細い声でそう答えた。
「ならば!」
 フロランはがばっと顔を上げる。

「本当にエルベラータ様は村を救おうとしているのですか?」
「そこを疑うのか?」

「エルベラータ様が村を滅ぼそうとしているという噂があって……」
「なんでそんなデマが!?」

「デマ、なのですか?」
「レミュールで流行したときにもくだらないデマがいくつも飛んだ。この村ですらそうなるとは……」

 はあ、とため息をついてからフロランは剣を自身に向けた。ろうそくの明かりに刀身がぎらついて見える。

「なにを!?」
 マリーベルは驚いて声を上げる。
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