意地悪な兄と恋愛ゲーム
本当の気持ち
「晴斗、今日うち泊まってく?」
土曜日は練習試合。
夕方、解散の指示を出した後、ベンチで荷物をまとめていると、後ろから声がかかった。
帰り支度を済ませた颯真だった。
「いや、いい。今日は夜、予定があるから帰るよ」
「ふぅん。そうなんだ」
グラウンドの外で、いつものように複数の女の子の声が聞こえる。
試合の後は、俺や颯真に声をかけてくる女の子の集団。
颯真一人じゃ対処しきれないらしく、こうして俺の支度を待って、二人で最寄り駅まで行くのが恒例になっている。
今日も適当にあしらいながら、グラウンドを抜け、二人で駅までの道を歩き出した。
「本当に懲りないよな、あの子達」
後をつけてくる女の子達を気にしながら颯真が困惑気味に言う
「お前はこういうの慣れてるかも知れないけど、俺は苦手なんだよ、しつこいの」
「俺もだよ。転校してきてしばらくは、毎日追いかけっこだった」
「うわぁ、無理だわ、俺。つーか、晴斗、予定って何?」
「え?」
「今夜、予定があるってさっき言ってたろ?まさか、女じゃないよな?」
「女?何だよ、それ」
「晴斗に限ってそれはないと思うけど、その辺の女に手出して美咲ちゃんを悲しませるような事はやめろよ?美咲ちゃんはさ、俺が貰う予定なんだから」
俺は思わず足を止めた。
それにつられて颯真も足を止める。
「どうした?」
「もう、颯真と付き合ってるのかと思ってた」
颯真は信じられないように目を丸めた。
「は?この間の見たんだろ?俺、あの時、本気で美咲ちゃんにキスしようとしたけど、美咲ちゃんはお前を追いかけて行った。これ、どういう事か分かるか?」
黙る俺に、颯真はため息混じりの呆れた声で言った。
「お前ってさ、自分の気持ちに真っ直ぐだけど、人の気持ちには鈍感なんだな」
「だって、あの日、美咲は颯真を追いかけていったはずだから」
「あの日?」
「あのカフェで会った帰り道。颯真の事、追いかけたら?って言ったんだよ、俺」
「そんな事言ったの?最低だね、お前。俺、帰り道は美咲ちゃんに会ってないよ」
「え…」
「たぶん、どこかで泣いてたんじゃない?美咲ちゃん」