意地悪な兄と恋愛ゲーム


「そ、そうなの!?」


 美咲は何も知らなかった。

 晴斗や父親とは幼い頃に別れたきり、ずっと離れて暮らしていたし、再び一緒に暮らし始めたのは最近の事だ。


「だから俺達に、兄妹の壁なんてものはないんだよ?」


「安心して?」と晴斗はベッドに腰かけたまま、ニコリと笑った。


 なかなか側から動こうとしない晴斗に、美咲は危機感を感じ、慌てて首を横に振る。


「壁はあるよ!ありまくる!私は晴斗なんて好きじゃないから!」


「ハッキリ言うね。でも、それは最初から分かってた事だし気にしてない。俺の事が嫌いなら、尚更振り向かせてやりたい」


 フフフと笑う上機嫌な晴斗に、絶望的な気持ちになった。


「ちょっ、ちょっと待って!どうして私なの?私よりも可愛くて晴斗に気がある子なんて山ほどいるじゃない!その子達じゃ駄目なのっ!?」


「誰でもいいならそうしてる。でも俺は今、美咲以外興味ないから…」


………興味?


「………ふぅん、なるほど。そういう事?次はそうやって、私を弄ぶつもりなんだ?」


 晴斗の『興味』という言葉を聞いて、美咲は妙に納得がいった。


「そうやってニコニコして、好きだとか言って、動揺する私を、晴斗は心の中で笑って、楽しんでいるんでしょう?」


 そうでもなければ説明がつかない。

 昔、あれ程虐めていた妹を、一体どうして、ここまで好きになれる?


 形は違っても、虐めはまだ続いているんだ___

 この人は、意地悪な好奇心から好意のあるフリをして私に言い寄って、心の中では嘲り楽しんでいるだけ。


「別に、そんなつもりはないけど…」と、否定する晴斗の顔からは、いつもの笑顔が消えている。


 けれど美咲にとっては、昔虐められた男に、今いきなり好きだと言われて、それを信じろと言う方が無理な話だった。


「そうだね、優しくてかっこいい先輩!皆は騙せても、私は騙されないから!」


「誤解だよ」


「何が誤解なの?私に嫌な事をしていたのは事実じゃない!晴斗が海外へ行ってから、私はずっと平和に暮らしてきたのに!もう、私に近付かないで!晴斗なんて、昔も今も大嫌いなままだよ!」


 美咲の心からの叫びが、保健室の中に響いた。

 ゾクゾクと身体が震え始め、無意識に腕をさする。

 また、晴斗と暮らす事になると、母親から聞かされた時も、身体の震えがしばらく止まらなかった。


「震えてる…」と、晴斗が呟く。


「…拒絶反応よ」

 
 美咲が晴斗からスッと目をそらすと、晴斗は小さく息をはいた。


「別に俺は、美咲を弄んで楽しむつもりはない。この気持ちは本物だよ。信じて欲しい」


「嫌…!ここからすぐに出てって!」


「……俺が昔からずっと、美咲を傷つけていた事は消えようのない事実だ。だから今すぐ、美咲の前から消えてやりたいけど、俺もこの気持ちを簡単に諦める事は出来ない。だから一つ、俺にチャンスをくれないかな?」


「チャンス?」


「そう。俺と、ゲームをしない?」

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