千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
いつもは態度も口調も軽い松戸のその声に頷いた芝山は司のいなくなった執務室で松戸を来客用のソファーに座らせ、自らも対面に腰を下ろす。
「そう言えば芝山さんとサシで話が出来るの案外貴重ッスよね?今夜は寝かせませんよ」
「馬鹿言えお前……なあ、松」
「はい?」
「お前、さっき御嬢さんの顔を見たことが無えと言っていたが本当の所はどうなんだ」
「モチロン、知ってますよ」
「だろうな」
はーっと溜め息を吐く芝山に「この子」と松戸は自らの端末内にある一枚の画像を芝山に見せる。
「小倉千代子さん。見ての通り、優しそうな子ですよ」
「そうだな……ってよくこの画角で撮れたな。しかもこれ、彼女がいたアパートの部屋か?」
「そうやって俺を隠密みたいにしたの芝山さんッスよ。兄貴からの依頼で“千代子さん”の自宅から荷物だけを夜中にささっと運び出した時、信頼のおけるヤツにボディーカメラ仕込んどいたんです」
「教えりゃなんでも“それ以上”の事をやってのけるとは言え……えげつねえな。さてはお前、ヤクザだな?」
「ヤクザですねえ」
若かった松戸を叱りながらもその才能を見守っていた芝山。
こいつはひょっとすると、と根気強く松戸の失敗と成功に付き合っていた。
周りからは勿論、松戸を本家から外すよう言われたりもしていたがまだ十代だった松戸に「芝山さんだけッスよ、どうしようもない俺を叱っても見放さなかったの」と言われ、人とは少し違う習得方法で学習する者なのだと理解してからは本当に松戸は良い舎弟となった。
ソファーに浅く座り直し、続けて芝山に端末の画面を見せる松戸は「で、話をその兄貴の従兄の“今川薫”の最近の動向に戻すとですねえ」と話を始めた。