低温を綴じて、なおさないで
助けを求める子犬のように、甘えた声で首をかしげられて、困った。
意思のよわい私の唇、肯定しか用意できなくなった。
「……だめ、じゃないです……」
警報くらい、経験のない私の中にも鳴り響いていた。
アラームを止めずに無視したのは、他でもない私だ。
「どんな映画が好き?」
「恋愛系、よく見ます」
「じゃあ恋愛映画見よう、俺も好き」
ふわりと、花が綻ぶように笑うひとだと思った。
“好き”、それはあくまで恋愛映画のこと。
それなのに、私に向けられた言葉であることに違いはないから、心臓がばくばくうるさくなってしまった。あまりに単純で純粋、ちょろすぎた当時の私。
でも、今あの日に戻ったって同じような言動を選択すると思う。大学という新たな環境に1年だけでも先に身を置く先輩は、私よりずっと大人に見えて、憧れた。
人を惹きつける外見はもちろんのこと、その余裕さと心地良い距離にどうしようもなく惹かれて、もっと長く時間を過ごしたくなった。