低温を綴じて、なおさないで
どこか見覚えがあったのは、彼女が森田真咲だったから。アイドルとかそんなんじゃない。ただそれだけ。
あの日、直の部屋で丁寧に仕舞われていた手紙の差出人。
加えてこの子は、わたしと同じ高校の後輩だった。元々面識があったわけではないけれど、わたしと同じ制服を着て同じ髪型で、直の隣を歩く姿が強く印象に残っていた。
幾度となく思った「どうしてわたしじゃダメなの」を、彼女に対してより強く、深く、思った。
わたしが唯一顔と名前を認識している、直の元カノ。
「一応、同じ学校でしたもんね、せんぱい」
「……うん、そうだね。じゃあ、この本は返してくるから」
はやくこの場から逃げたかった。話したくなんかない。顔を見たくない。
いま、この子が直と何かあるわけではないことはわかってる。けれど、自分の嫌なところも一緒に思い出されて、いやだったから。
だいすきな図書館を、わすれたい記憶を呼び起こすトリガーにしたくなかった。