低温を綴じて、なおさないで



「って、わたしばっかりじゃなくて、直はどうなの」


「最近は特に何も」




缶を真上にして飲み切った直が感情も乗せずに呟いた音は、星空へと消えていく。



直はいま何もないと思っているかもしれないけれど、またひとり直に好意を寄せる女の子が増えてる。



教えてあげて、受身な直の手助けをするほど、わたしは良くできていないけれど。


直相手なら友達の恋も応援できないくらい小さくてずるい人間なのだから。




今はまだ、茉耶の名前を出さなかった。


でもたぶん、直の唇が茉耶の名前を紡ぐようになるのは時間の問題。



わたしも最後のひとくちをぐっと流し込んで、またじわじわと込み上げてきそうな灰色を押し込めた。







꙳.☽







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