低温を綴じて、なおさないで




“なかったことにしよう”


そんな言葉、お互いに言わずとも仕舞い込んだ。



想いを寄せているのは俺だけでも、栞も俺との関係を壊したくないと思ってくれているのは確かだった。




栞のためならなんでもするし、いつでも助けに行くし、きみの願いがすべて叶うように世界が動けばいいと本気で思っている。



少なくとも俺は、ただの幼なじみなんて思っていなかった。

それでもただの幼なじみであることに意味があったから。




ただの幼なじみは高校生になってまで部屋を行き来しない。キスもしない。抱きしめない。合鍵を交換し合わない。



わかっているのに、わかっていないふりをずっと続けて、栞を離そうとしなかった。




俺だけ見てよ、好きになってよ、他の男を恋人にするなよ。


すべてのダサすぎる本音を綴じて仕舞い込んで、きみの幸せを願い続けた。





𖤐·̩͙





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