低温を綴じて、なおさないで





天然人たらしのような雰囲気を醸し出した彼が、わたしに気がついてばちっと瞳が射抜く。


ここで偶然に出会うのは、直ではなく葉月くんだったみたいだ。



ゆっくりとわたしたちの座るテーブルへ方向転換し、視線は葉月くんからその目的地、わたしへと移動する。



葉月くんに向けられていた甘っぽいふわんとしたものではなく、刺々しさが滲んでいて、いたい。



わたしのところにたどり着いてしまった葉月くんは端正な顔立ちにお手本のような微笑みを乗っけるから、周りからの不機嫌に気づかないふりをして、好みど真ん中のビジュアルに全神経を集中させる。




「栞ちゃんにここで会えるとは思ってなかった」


「なかなかないよね、新鮮」




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