孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
「ねぇ、あれ見て」
控え室に向かう関係者専用通路を歩いていると、野々花が体を寄せて小声を出す。
言われた先には、華やかで目を引く男女の姿が。うちの航空会社のパイロットと客室乗務員だ。
あまりじろじろ見るのもよくないと思い、チラ見で視線を下げる。CAが可愛らしい笑顔をパイロットに向けているのが目に映った。
向こうから歩いてくるふたりとすれ違いざま、野々花と私は揃って会釈をする。
「高坂機長、今度は別のCAに絡まれてるじゃん」
「え? 別のって?」
「だって、この間は台湾航空のCAに告白されてたって。目撃者からの情報」
「そうなんだ……」
そんな話題につい後方を振り返ってしまう。
遠くに離れたその後ろ姿は、パイロットの制服が映える長身の八頭身。
さらりとしたゆるふわの黒髪、均整の取れた顔、現れただけで存在感を放っている強者──『JSAL』の機長、高坂遥だ。
聞いた話によると、高坂機長はうちの親会社である『JSAL』の御曹司。父親が重役だという。
そういった家柄、機長というスペックと、持ち合わせている容姿で高坂機長は女性たちの憧れの存在なのだ。
彼に関しては常にいろいろな情報が飛び交っていて、そのほとんどが女性にモテているという内容ばかり。
誰が好意を寄せているとか、告白されていたとか、そんな目撃情報や噂ばかり耳にする。
「いやぁ、モテる男は話題が尽きないね」
関心したように、はたまた呆れかえったように野々花は言った。