Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
2人きり
フォマルハウトとカペラは呆然と立ち尽くした。一緒の船で来た警備兵たち10人余りが、1人残らず海に消えた。消息は確認していないが、海のど真ん中で海中に沈めばまず助からない。もっとも望みはゼロではないが……。
「どうするよ…」
フォマルハウトはカペラに語りかける。自分は広報担当の役人、カペラは看護師である。警備兵のように武術の心得はなく、サバイバルの知識もない。
「まあ…2人っきりで禁断の愛の旅行ってことで……ドキドキするねっ、仲良くしましょうよ!」
カペラお決まりのセクハラ発言も、この時ばかりは空しく響く。カペラ本人も自分で言って空回りしたことに気付き、きまずい顔をした。仕事で予期せぬ事態になり、同僚の美人女性と2人っきり――そんな甘美な状況を楽しむ余裕などない。初めて来た地に放り出されたのである。警備兵たちの安否が気になったが、今はどうすることもできない。
「と、とにかく手配されている宿を探そう」
2人がいる地点は、北の村の東側の港である。見上げると高台には祠があり、地図には「巨門の祠」と書かれている。西には低地の町があるようなので、そちらに向かうことにした。
夜10時を回った頃だろう。辺りは暗くなり、目を凝らさなければ先が見えない。東の都はこの時間でも灯りが消えることがなく、外で飲みに行くことも多かった。それがこの村は、本当に灯りがなくて闇そのものなのだ。
本当の夜って、こういうものなんだな。都会育ちのフォマルハウトは、夜の闇の深さをあらためて知った。カペラはと言うと、怖いのかフォマルハウトの腕に自分の腕を絡ませ、しっかりとしがみついている。
――カペラって、胸大きいんだな。
そんなことを思いながらフォマルハウトは歩く。当然のことだが、結婚してから他の女性と関係を持ったことがなく、体に密着したこともない。カペラの言うとおり、「禁断の旅行」みたいになっている。
と、突然ガアガア! という音がした。2人はビクッとして体を寄せ合う。カペラは胸だけでなく脚も絡ませてフォマルハウトに抱きついた。心臓の鼓動が早くなるのを感じつつ、フォマルハウトは冷静に言う。
「カラスだ、びっくりさせるなあ……」
危険な状況で一緒にいる男女は恋愛感情が生まれやすいと聞いたことがあるが、もし独身だったらこれでカペラと深い関係になってもおかしくなさそうである。
「カペラ、怖いか?」
フォマルハウトが穏やかな声で言った。カペラは震えているのだ。
「だって……初めての出張がこんなに怖いなんて思わなかったし…」
そうか、彼女は仕事で外に出ることがほとんどないんだ。ましてや、今回のような危険を伴う任務はそもそも荷が重かったのかもしれない。
「あ、灯りが見えてきた。町だ」
フォマルハウトは明るく言いながら前方を指さした。ちらほらと灯りが見える。どうやら助かった。
しかし、予約していたはずの宿に着いて驚いた。今朝方、主人が妖星疫に罹ってしばらく休業することになったという。北の村では唯一の大規模な宿舎だったため、フォマルハウトとカペラは再び途方に暮れる。
すると、女将が助け船を出してくれた。
「少し先に民宿があるわ。そっちに行ってみて。ごめんなさいね」
仕方なく教えてもらった民宿に行ってみると、かろうじてやっていた。事情を話すと、部屋を用意してくれるという。
「病気が流行ってしまって、飲食や宿泊の仕事は厳しい状況だよ」
民宿の廊下を案内しつつ、女将が言った。妖星疫はもう星の大地じゅうに広がっている。防ぐ手立てや致死率が未知であるため、下手に動けない人が多いのだ。そんな中、この民宿は度胸があるな、と思わずにはいられなかった。
部屋に通されて荷物を置く。八畳ほどの部屋で、座卓がある以外は飾りのようなものはない。ん? 部屋は一つ?
「あの……」
と、フォマルハウトが女将にたずねる。
「部屋、一つですか?」
「え? ああ、他が片付いていないからこの部屋だけだよ」
困惑するフォマルハウトをよそに、カペラはお茶をついでのんきに飲み始めている。
「大丈夫でしょう。見たところ、あの女性は別にあんたを悪く思っていないようだし、間違いがあっても問題ないって」
いや、僕は既婚者だし、一部屋に妻以外の女性と一夜を過ごすのがそもそも問題なんですが……。
しかし、「なんなら外で寝る?」と言われ、やむなくあきらめる。武官と違ってサバイバルの心得はない。一晩、自分の理性が保たれますように……。
「どうするよ…」
フォマルハウトはカペラに語りかける。自分は広報担当の役人、カペラは看護師である。警備兵のように武術の心得はなく、サバイバルの知識もない。
「まあ…2人っきりで禁断の愛の旅行ってことで……ドキドキするねっ、仲良くしましょうよ!」
カペラお決まりのセクハラ発言も、この時ばかりは空しく響く。カペラ本人も自分で言って空回りしたことに気付き、きまずい顔をした。仕事で予期せぬ事態になり、同僚の美人女性と2人っきり――そんな甘美な状況を楽しむ余裕などない。初めて来た地に放り出されたのである。警備兵たちの安否が気になったが、今はどうすることもできない。
「と、とにかく手配されている宿を探そう」
2人がいる地点は、北の村の東側の港である。見上げると高台には祠があり、地図には「巨門の祠」と書かれている。西には低地の町があるようなので、そちらに向かうことにした。
夜10時を回った頃だろう。辺りは暗くなり、目を凝らさなければ先が見えない。東の都はこの時間でも灯りが消えることがなく、外で飲みに行くことも多かった。それがこの村は、本当に灯りがなくて闇そのものなのだ。
本当の夜って、こういうものなんだな。都会育ちのフォマルハウトは、夜の闇の深さをあらためて知った。カペラはと言うと、怖いのかフォマルハウトの腕に自分の腕を絡ませ、しっかりとしがみついている。
――カペラって、胸大きいんだな。
そんなことを思いながらフォマルハウトは歩く。当然のことだが、結婚してから他の女性と関係を持ったことがなく、体に密着したこともない。カペラの言うとおり、「禁断の旅行」みたいになっている。
と、突然ガアガア! という音がした。2人はビクッとして体を寄せ合う。カペラは胸だけでなく脚も絡ませてフォマルハウトに抱きついた。心臓の鼓動が早くなるのを感じつつ、フォマルハウトは冷静に言う。
「カラスだ、びっくりさせるなあ……」
危険な状況で一緒にいる男女は恋愛感情が生まれやすいと聞いたことがあるが、もし独身だったらこれでカペラと深い関係になってもおかしくなさそうである。
「カペラ、怖いか?」
フォマルハウトが穏やかな声で言った。カペラは震えているのだ。
「だって……初めての出張がこんなに怖いなんて思わなかったし…」
そうか、彼女は仕事で外に出ることがほとんどないんだ。ましてや、今回のような危険を伴う任務はそもそも荷が重かったのかもしれない。
「あ、灯りが見えてきた。町だ」
フォマルハウトは明るく言いながら前方を指さした。ちらほらと灯りが見える。どうやら助かった。
しかし、予約していたはずの宿に着いて驚いた。今朝方、主人が妖星疫に罹ってしばらく休業することになったという。北の村では唯一の大規模な宿舎だったため、フォマルハウトとカペラは再び途方に暮れる。
すると、女将が助け船を出してくれた。
「少し先に民宿があるわ。そっちに行ってみて。ごめんなさいね」
仕方なく教えてもらった民宿に行ってみると、かろうじてやっていた。事情を話すと、部屋を用意してくれるという。
「病気が流行ってしまって、飲食や宿泊の仕事は厳しい状況だよ」
民宿の廊下を案内しつつ、女将が言った。妖星疫はもう星の大地じゅうに広がっている。防ぐ手立てや致死率が未知であるため、下手に動けない人が多いのだ。そんな中、この民宿は度胸があるな、と思わずにはいられなかった。
部屋に通されて荷物を置く。八畳ほどの部屋で、座卓がある以外は飾りのようなものはない。ん? 部屋は一つ?
「あの……」
と、フォマルハウトが女将にたずねる。
「部屋、一つですか?」
「え? ああ、他が片付いていないからこの部屋だけだよ」
困惑するフォマルハウトをよそに、カペラはお茶をついでのんきに飲み始めている。
「大丈夫でしょう。見たところ、あの女性は別にあんたを悪く思っていないようだし、間違いがあっても問題ないって」
いや、僕は既婚者だし、一部屋に妻以外の女性と一夜を過ごすのがそもそも問題なんですが……。
しかし、「なんなら外で寝る?」と言われ、やむなくあきらめる。武官と違ってサバイバルの心得はない。一晩、自分の理性が保たれますように……。