Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
武曲の祠
「おはよう、ハウト」
あくびをしながら、寝ぼけまなこのカペラが起きてきた。一方、フォマルハウトは目にくまがある。
「あれ? あまり眠れなかった?」
「ああ……」
半目でつぶやくフォマルハウト。そりゃ胸がはだけた無防備な女性が隣で寝ていて、怪しい声が聞こえれば眠れないだろう。
「もしかして私、襲われた?」
「んなわけないだろう!!」
即座に否定する。が、カペラは「最後までじゃなかったら、胸くらい触ってもよかったのに……もったいないことしたね」と笑顔で返す。触ってもいいって、まったくこの人は……。
2人で朝食をとり、今日の予定の打ち合わせをする。
「武曲の祠?」
「ああ、夕べ、声が聞こえたんだ」
寝しなの謎の声――気のせいと言えばそれまでだが、手がかりがない以上、行ってみようと思った。フォマルハウトは北の町の地図を広げ、ある一点を指さした。
「ここが武曲の祠だ」
アルコルが紫微垣になった後、北の町には北斗七星を模した七つの祠が建てられた。その一つが武曲の祠である。位置としては、今いる民宿が東よりで、祠は西側の高台にある。歩いていけば昼くらいまでには着くだろう。
2人は、民宿の女将に弁当を作ってもらって出発した。この時代の北の町は東の都などからの移住者があり、ほどほどのにぎわいを見せていた。人家がまばらだった低地には家や長屋が増え、迷いの森は開拓されて共同墓地に、砂丘は植樹がなされて林になった。共同墓地にも砂丘跡にも祠が設けられるなど、300年で様変わりしたのだ。
地図を見ながらフォマルハウトは低地の町を進む。漁業が盛んのようで、魚屋や魚を加工する工場が軒を連ねる。ふと、都で買い物をするとき北の町で生産されたかまぼこやちくわがあったことを思い出した。
低地から高台に登り、武曲の祠に着いた。時刻は正午前であった。
「ここが武曲の祠?」
「みたいだね」
祠の横には幅の広い山道がある。その先は、まるで天空に続いているように見えた。
《…ようこそ》
「ん? カペラ、何か言った?」
「ううん。何も言ってないよ」
おかしいな。ここには2人しかいないはずだ。そう思ってフォマルハウトがきょろきょろしていると――《ここだよ》という声とともに、祠に人の姿が現れた。それは60代くらいの女性だったが、足が見えず、体が半透明に透き通っていた。
「ゆ、幽霊!?」
「きゃああああ!!」
フォマルハウトとカペラが叫ぶ。後世のシリウスたちの反応とまったく同じである。
《落ち着いて。確かに霊体だけど危害は加えないって》
その幽霊は慌ててなだめる。
《僕の声を聞いてくれたのはどちらかな? いずれにせよ、この300年間呼び掛けて来てくれたのは君たちが初めてだよ》
僕――? 今、僕と言った?
《僕の名はアルコル。300年前、北辰の祠にポラリスの水晶を奉納した守護戦士・紫微垣だ》
女性かと思っていたけど男性なのか? いや、そもそも昼間っから幽霊が出るとは? それに今、「紫微垣」と言ったか?
「では、あなたが300年前の大海嘯と鬼雨をしずめた人ですか?」
《そういうこと。弱々しくて女の子に間違えられる男の子だったけど、神から啓示を受けて紫微垣になって、ポラリスを加工して奉納したんだ》
少し落ち着いてきたので、弁当を食べながらアルコルの話を聞いた。苦難の末、ポラリスを奉納したこと、その過程で家族や学友を亡くしたこと、その後は北の町に移り住んで祠を建ててきたことなど――。ちなみに、武曲の祠から北辰の祠に続く道は、山津波で木々が流された跡にできたらしい。それにしても、紫微垣が優男だったことに驚いた。もっと屈強な人だと思っていたのに。
《紫微垣としての使命に生き、結婚して子宝にも恵まれた。とても幸せな人生だったよ》
妻のベナが60歳半ばで亡くなり、自身もその2年後に亡くなった。だが、幸せな人生だったのに、なぜこの世に未練があるかのように霊体が残っているのか?
すると、アルコルは肩を落として語り始めた。
《跡継ぎを育てることができなかったんだ……》
亡くなる数年前から、アルコルは七星剣をふるうことが難しくなっていった。加齢によるものだったという。そんなことになるとは思わなかったため慌てて後継者を探すことにしたのだが、見つからなかったのだ。そのため、亡くなった後もポラリスを見守り続けているらしい。幸い、民のポラリスへの信仰が深かったため、これまで盗まれることがなかった。
《だけど、つい半年前に北辰の祠に向かった怪しい人影を見たんだ》
民が神への信仰を徐々に忘れるようになったため、「このままではまた自然災害が起きる」と危惧していた矢先だった。
《僕は最後の最後で、大切な使命を果たせなかった。だからこそ輪廻転生を止めて、今も霊体でい続けているんだ》
あくびをしながら、寝ぼけまなこのカペラが起きてきた。一方、フォマルハウトは目にくまがある。
「あれ? あまり眠れなかった?」
「ああ……」
半目でつぶやくフォマルハウト。そりゃ胸がはだけた無防備な女性が隣で寝ていて、怪しい声が聞こえれば眠れないだろう。
「もしかして私、襲われた?」
「んなわけないだろう!!」
即座に否定する。が、カペラは「最後までじゃなかったら、胸くらい触ってもよかったのに……もったいないことしたね」と笑顔で返す。触ってもいいって、まったくこの人は……。
2人で朝食をとり、今日の予定の打ち合わせをする。
「武曲の祠?」
「ああ、夕べ、声が聞こえたんだ」
寝しなの謎の声――気のせいと言えばそれまでだが、手がかりがない以上、行ってみようと思った。フォマルハウトは北の町の地図を広げ、ある一点を指さした。
「ここが武曲の祠だ」
アルコルが紫微垣になった後、北の町には北斗七星を模した七つの祠が建てられた。その一つが武曲の祠である。位置としては、今いる民宿が東よりで、祠は西側の高台にある。歩いていけば昼くらいまでには着くだろう。
2人は、民宿の女将に弁当を作ってもらって出発した。この時代の北の町は東の都などからの移住者があり、ほどほどのにぎわいを見せていた。人家がまばらだった低地には家や長屋が増え、迷いの森は開拓されて共同墓地に、砂丘は植樹がなされて林になった。共同墓地にも砂丘跡にも祠が設けられるなど、300年で様変わりしたのだ。
地図を見ながらフォマルハウトは低地の町を進む。漁業が盛んのようで、魚屋や魚を加工する工場が軒を連ねる。ふと、都で買い物をするとき北の町で生産されたかまぼこやちくわがあったことを思い出した。
低地から高台に登り、武曲の祠に着いた。時刻は正午前であった。
「ここが武曲の祠?」
「みたいだね」
祠の横には幅の広い山道がある。その先は、まるで天空に続いているように見えた。
《…ようこそ》
「ん? カペラ、何か言った?」
「ううん。何も言ってないよ」
おかしいな。ここには2人しかいないはずだ。そう思ってフォマルハウトがきょろきょろしていると――《ここだよ》という声とともに、祠に人の姿が現れた。それは60代くらいの女性だったが、足が見えず、体が半透明に透き通っていた。
「ゆ、幽霊!?」
「きゃああああ!!」
フォマルハウトとカペラが叫ぶ。後世のシリウスたちの反応とまったく同じである。
《落ち着いて。確かに霊体だけど危害は加えないって》
その幽霊は慌ててなだめる。
《僕の声を聞いてくれたのはどちらかな? いずれにせよ、この300年間呼び掛けて来てくれたのは君たちが初めてだよ》
僕――? 今、僕と言った?
《僕の名はアルコル。300年前、北辰の祠にポラリスの水晶を奉納した守護戦士・紫微垣だ》
女性かと思っていたけど男性なのか? いや、そもそも昼間っから幽霊が出るとは? それに今、「紫微垣」と言ったか?
「では、あなたが300年前の大海嘯と鬼雨をしずめた人ですか?」
《そういうこと。弱々しくて女の子に間違えられる男の子だったけど、神から啓示を受けて紫微垣になって、ポラリスを加工して奉納したんだ》
少し落ち着いてきたので、弁当を食べながらアルコルの話を聞いた。苦難の末、ポラリスを奉納したこと、その過程で家族や学友を亡くしたこと、その後は北の町に移り住んで祠を建ててきたことなど――。ちなみに、武曲の祠から北辰の祠に続く道は、山津波で木々が流された跡にできたらしい。それにしても、紫微垣が優男だったことに驚いた。もっと屈強な人だと思っていたのに。
《紫微垣としての使命に生き、結婚して子宝にも恵まれた。とても幸せな人生だったよ》
妻のベナが60歳半ばで亡くなり、自身もその2年後に亡くなった。だが、幸せな人生だったのに、なぜこの世に未練があるかのように霊体が残っているのか?
すると、アルコルは肩を落として語り始めた。
《跡継ぎを育てることができなかったんだ……》
亡くなる数年前から、アルコルは七星剣をふるうことが難しくなっていった。加齢によるものだったという。そんなことになるとは思わなかったため慌てて後継者を探すことにしたのだが、見つからなかったのだ。そのため、亡くなった後もポラリスを見守り続けているらしい。幸い、民のポラリスへの信仰が深かったため、これまで盗まれることがなかった。
《だけど、つい半年前に北辰の祠に向かった怪しい人影を見たんだ》
民が神への信仰を徐々に忘れるようになったため、「このままではまた自然災害が起きる」と危惧していた矢先だった。
《僕は最後の最後で、大切な使命を果たせなかった。だからこそ輪廻転生を止めて、今も霊体でい続けているんだ》