Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

新たなる秘剣

 屋外に出ながら、二人はアルコルの説明を聞いた。
「つまり、七星剣の作り方は頭に設計図が浮かぶから、メモや口伝では教えられないのね」
「ああ、だからこそ継承が難しかったんだろうね」
 フォマルハウトが、自分の七星剣を手にとって眺める。
《それにしても、作り手によって星鏡の色が変わるなんて思ってもみなかったなあ。僕のは紺色だったよ》
 アルコルがつぶやく。自分以外に七星剣を作った者がいたことがないので、知らなかったのも当然である。
「で、次は何をすればいいんですか?」
《秘剣の習得だよ》

フォマルハウトは、アルコルの指導を受けながら三つの秘剣――魚釣り星、螺旋昴、三連突きを練習し始めた。紫微垣に選ばれただけあって、あっという間に秘剣をマスターした。が、問題はその後だった。致命的な弱点が露見したのだ。
訓練時、フォマルハウトは岩に照準を合わせて魚釣り星を放った。が、バシィッという音とともにはじかれたのだ。これを見てアルコルは「腕力が足りない」と指摘した。腕力だけではない、脚力、腹筋、背筋などの身体能力が、フォマルハウトは並の成人男性より劣っているのだ。
 アルコルは啓示を受けた時、思春期を迎える12歳だった。つまり、第2次成長前だったため、短いながらも秘剣の訓練をしたおかげで一定の身体能力が付いたのである。が、フォマルハウトは24歳で体の成長は終わっていて、これ以上身体能力が伸びる見込みがない。
《どうするかな…》
 アルコルにとっては大きな誤算だった。するとカペラが「食事で何とかならないかしら?」と、肉体改造の提案をしてきた。が、当のフォマルハウトは「食事を強制されるのは嫌だ」と突っぱねた。
 とりあえず秘剣の修行を中断し、武曲の祠から北辰の祠に行ってみることにした。ポラリスが納められているか、まだ確認できていないのである。登るとかなり急峻な坂である。一時期はお参りする人が行列をなし、整理券が配られることもあったという。
 やがて五合目まで来た時、横倒しになった巨木に出くわした。
「うわあ……」
 太さは、直径3mはあるだろう。高さもかなりあり、道幅いっぱいに横たわっている。これをよじ登るか、横道を探して迂回しなければ先に行けない。が、登ろうにも木肌がざらついていて素手では触れない。かといって、横は岩になっているので、迂回路もなさそうである。のこぎりなどで地道に削ったとしたら、数カ月はかかりそうだ。
《フォマルハウト、魚釣り星で切ってみて》
 アルコルが指示する。が、フォマルハウトは自信がない。
「できますか?」
「ハウト、やらなきゃ進まないよ? ダメ元でやってみればいいじゃない」
 カペラにも促され、フォマルハウトは七星剣を取り出して構える。剣を鞭状に変形させ、秘剣・魚釣り星を放った。が、いとも簡単にはじかれた。後年、五代目紫微垣になったシリウスの筋力なら、何度かやればこじ開けられただろうが――。
「やっぱり無理か……」
 一行は途方に暮れる。ここで足止めされている間にも、妖星疫は広がっているというのに……。フォマルハウトは座り込んでがっくりと顔を伏せた。
「どうしましょうか? アルコルさん」
《うーん、正直なところ、彼にしか頼めないんだよね。今から新しい候補者を探すのも難しいし……》
 すると突然、フォマルハウトがガバッと立ち上がった。
「な、何!?」
「今、不思議な光景が浮かんだ。七星剣が錨の形になる姿だ」
 フォマルハウトは七星剣を構え、目を瞑った。まぶたの裏に、カシオペア座のWの文字と錨が伸びる様が浮かび上がった。
「秘剣・錨星!」
 七星剣が錨型に変形し、幹の上にある太めの枝に伸びて巻き付いた。
「これをロープ代わりにしてよじ登ろう」
「すごい! やったね、ハウト!!」
《新しい秘剣か!》
 カペラとアルコルは感心したように喜んだ。

 その後、フォマルハウトは次々に秘剣を編み出した。いくつもの細い枝が絡まった場所では、その枝に七星剣を巻き付けて渾身の力で引っ張った。するとボキンッ、という音を立ててまとめて折れた。秘剣・破十字である。また、鷹が上空から襲いかかってきた時は、剣を追撃するよう誘導した。こちらは秘剣・釣り鐘星だ。
 さらに、山頂近くの岩の門の前では向かい風に当たった。かなりの強風で吹き飛ばされそうになったが、剣の柄を上にして、アンドロメダ星雲の渦をイメージしながら空気の流れを変えた。秘剣・文綾の星をマスターし、それを盾にして門をくぐった。
「やった、山頂よ!!」
《たいしたものだよ、フォマルハウト。身体能力の弱さをカバーするため、新しい秘剣を生み出すなんてね》
「じゃあ、北辰の祠を見てみましょう」
 3人は岬にある祠に向かって歩を進めた。近づくにつれ――3人の顔色が変わり、アルコルが叫んだ。
《ない、ポラリスがない!!》
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