Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

大火の薬①

 ルクバトたちの突入まで1時間。しかし、先ほどの窓ガラスが割れる音が、事態を急転させることになった。
「おい、下の階で何か音がしなかったか?」
 赤星党の数人が、5階から4階に降りてきたのだ。その階段で、フォマルハウトたちと鉢合わせした。
「おい、誰だ!!」
「ちっ…!」
 党員の叫び声を封じるかのように、フォマルハウトは秘剣・魚釣り星を繰り出す。バシッと顔面に直撃し、仰向けに倒れた。
「すごいわハウト、秘剣完璧じゃない」
 カペラがほめるものの
「いや、やはり僕では秘剣を使いこなせないよ」
 と、フォマルハウトは淡々と返す。渾身の力で放てば、本来なら敵に致命傷を与えられるはずである――もっとも殺す気はないのだが。しかしながら、腕力が足りないためそこまでに到らない。
「フォマルハウト…!」
 後ろから声がしたので身構えて振り返った。すぐそこにルクバトがいたのである。
「ルクバト、もう突入したのか!?」
「さっき、派手にガラスが割れる音がしたからな。少し早いが突入に踏み切った」
 とは言っても、赤星党に気付かれないよう1階の四方から静かに侵入した。
「人質のカペラは救出したってことで、ここからは派手に行くぜ!」
 そう言い残すと、ルクバトは部下数人と共に階段を駆け上がった。

 フォマルハウトが5階に行くと、すでに党員らの多くが床にひれ伏していた。見ると、みんな手足が腫れ上がっている。
「え、こんな短時間に制圧したの!?」
 カペラが驚く。
「ああ、爆弾や薬物を使う厄介な敵と思ったけどよ、肉弾戦になればこっちのもんだ。手足を折れば簡単に捕縛できるからな」
 戦闘の実践経験には差があったということか。
「ふーん、よくまあここまでやってくれたな」
 6階に続く階段から声が聞こえてきた。
「アンタレス!」
 フォマルハウトが叫ぶ。その横で、ルクバトが闘気を練り始めた。そして闘気が充分にたまると、弓をひきしぼりひょうっ、と光の矢を放った。
 アンタレスは、左手でその矢を受け止めた。バチバチバチ……という電流が飛び散り、光の矢が消える。
「ずいぶんと強いんだな、ルクバト」
 斗宿の矢の闘気を左手だけで防いだアンタレスが、静かに言った。
「…おいおい、こんなばかなことあるか?」
 ルクバトが驚愕する。闘気は最大限のエネルギーをためていた。いわばフルチャージ状態で放ったのだ。そのエネルギーに耐え抜いたというのか!?
「ルクバト、あいつどうなっているんだ?」
 フォマルハウトが尋ねてくる。
「知るかよ、言えるのは俺の闘気に耐えうる耐久力を持っているってことだ」
 それこそ信じられない。アンタレスは医師であり戦闘員でも災害救助の兵でもないし、特別な訓練も受けていない。何か魔術でも使わなければ、こうはならないはず――。
「薬か!!」
 フォマルハウトはとっさに気付いた。妖星疫を体内で抑える薬を作れるくらいだ、人体の耐久力を上げる薬も作れたのかもしれない。
 すると、アンタレスはポケットから小瓶を三つ取り出した。中には真紅の液体が入っているが、うち一つはすでに空だった。
「ふっ、この大火の薬は人体の一部を超高温に上げることができる。と言ってもまだ試作品だがな……ルクバト、闘気のような火遊びとは違う地獄の技を見せてやるよ」
 アンタレスの左手から煙が立ち上り、やがて火が現れた。火が炎になり、火の柱になるまでそう時間はかからなかった。
「お前ら、よくここまで赤星党を追い詰めたよ。褒美に、炎熱地獄であの世に送ってやる……ゆけ、業火の風よ!!」
 アンタレスが左手を前に突き出すと火柱が竜巻状に変形して発射された。業火が螺旋状に向かってくる。
「避けろ!!」
 フォマルハウトはカペラを抱えて左に、ルクバトは右に飛んだ。しかし、背後にいたルクバトの部下数人が炎の風に巻き込まれた。
「ぐあああああああ!!」
「お前ら!!」
 炎は壁に激突すると、ゴオン、というすさまじい音を立てて穴を開けた。辺りに立ちこめた煙が消えると、そこには上半身が黒こげになっている兵士たちがいた。彼らは腰の辺りまで焦げていて、やがて力なくドサッと倒れた。
「ひいっ!」
 カペラが悲鳴を上げる。トラウマになりそうな残虐な殺し方であった。
「アンタレス、よくも……」
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