Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

紫微垣の候補生たち

 妖星疫の蔓延が終息して15年が経った――。あの時の疫病のことはほとんどの人が忘れ、今では見るかげもない。
「師匠、準備が整いました」
「ああ、ご苦労様」
 東の都の城に近い建物――5人の10代の男女が整列していた。「師匠」と言った青年はその5人の先頭に立った。そして「師匠」と言われた壮年の男性――二代目紫微垣・フォマルハウトは、青年たちの前でにこやかに言った。
「おはようみんな。では、今日も修行を始めようか」

 フォマルハウトは赤星団との激闘の後、アルデバラン王に進言して一つの機関を作った。次世代の紫微垣の候補生を探し、鍛える機関――「天牢庵」である。
 アルコルが次世代に紫微垣を継承できず、300年のブランクができてしまったことから、確実に次の世代に継承しようと考えたのである。
 現在、候補生は5人。ガクルックスとアクルックスという15歳の双子の少年、ミモザという18歳の年長の青年。アヴィオールという13歳の少年。そして――フォマルハウトの16歳の娘であるミアプラだ。
 天牢庵の1日は、朝6時の瞑想から始まる。朝食の後に図書室である「尚書」で勉強し、9時から昼食を挟んで午後2時まで剣の修行をする。3時から5時までまた勉強し、夕方から夜は自由時間となり、夜10時に就寝する。
 食事はまかない部署の「八穀」が一手に引き受ける。育ち盛りの少年少女の食欲を満たすだけでなく、体が作られる大事な世代であるため、栄養のバランスもよく考えられている。このほか、七星剣を管理・整備する部署「天槍」や、修行の疲れをとるための宿舎「傳舎」がある。いずれも、中国星座の「紫微垣」の中に位置する星の呼び名だ。
 フォマルハウトがここまで充実した育成機関を作れたのは、何といってもアルデバラン王の財力と権力、そして紫微垣である彼自身の功績によるものだ。
「ハウト、今日もみんながんばっているかしら?」
 フォマルハウトの妻・カペラがやってきた。戦いの後に再婚し、それから14年の歳月が流れた。「子供、たくさんほしいなあ」と彼女は言っていたが、結局は1人しか授からなかった。その子というのが……。
「お母さん!」
「アヴィ、しっかりやっている?」
 手を振ってきたアヴィオールに、カペラは笑顔を返す。フォマルハウトと前妻・シャウラの間に生まれたミアプラ、カペラとの間に生まれたアヴィオールは、共に紫微垣の候補生となったのだ。アヴィオールは素直で明るい男の子で、皆から愛されている。幼い頃は異母きょうだいのミアプラに泣かされることが多かったが、思春期を迎え、心身ともに成長してきた。カペラは、自分が生んだアヴィオールがかわいくて仕方がなかった。
時々フォマルハウトに「もう1人くらいがんばってみる?」と誘って挑戦することがあるのだが、授かることがない。2人とももう40代で、授かる力も弱くなってきているのが現実である。
フォマルハウトは、カペラとの育児はとても楽しんでいた。前妻のシャウラがいつも不機嫌で、家庭で安らいだ記憶がほとんどなかったから、後妻と築いた家庭はとても居心地がよかった。
全てが幸せそうなフォマルハウトの一家だったが……一つ懸念することがあった。ミアプラである。

ミアプラは父親であるフォマルハウトとカペラの愛を充分に受けて育ったため、天真爛漫な性格だった。思春期を迎え、フォマルハウトにそっけない態度をとるようになったものの、「父親が大好き」という想いはあった。しかしある時、その想いが音を立てて崩れ去った。

 お父さんは、お母さんを裏切った――。

 都の城の女性文官たちが話していたのだ。裏切ったって、どういうこと? お母さんは私が1歳になる前に事故で亡くなって、その後に継母と結婚したんじゃ? そう思っていたのに……。
 真実を確かめたい。けど、それを聞いたらお父さんとの絆が壊れてしまいそうで聞けなかった。ミアプラのフォマルハウトへの態度がよそよそしくなり、カペラに対しても心の壁を作るようになった。アヴィオールには何事もないようにふるまうものの、やはり態度が変わってしまった。

 フォマルハウトはそのことに気づいていた。が、デリケートな問題であるため、しばらくは様子を見ることしかできなかった。
 そんな折、天牢庵は大きな転換期を迎える。
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