Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
七星剣の試練①
朝。カノープスは午前4時にむくりと起きた。横を見ると、アルセフィナが寝息を立てている。かわいい寝顔だ。カノープスは妹のきれいな髪をなでると、立ち上がって朝食を作り、仕事の支度をする。
母マルケブはいない。東の都に来てからも昼夜逆転の生活は直らなかった。というよりもさらにひどくなっている。天牢庵をうろうろすることはあるが、カノープスに関わろうとはしないのだ。
しかし、カノープスには母親に気をもんでいる暇がない。支度が終わると、さっさと出勤した。
いつものように紫微垣の候補生たちのために朝食を作り、それが終わるとその日の昼食と夕食の仕込みをする。そんな生活が2カ月続いた。幸い、職場の人たちは皆親切で、仕事も丁寧に教えてくれる。何より、未成年のカノープスは子供や弟のようにかわいがられていた。今までは長子として、また家族を支える立場として懸命にこらえていたところもあるが、ここでは15歳らしい自分でいられる。それがうれしかった。
ミアプラたちとはにらみ合いが続いていたが、彼女らが食事を残さなくなってからはけんか自体がほぼなくなった。フォマルハウトも「やれやれ」とほっとしているという。
そんなある日――候補生たちが北の町に行くこととなった。
「4人分の弁当?」
カノープスは怪訝な顔をした。先ほど、フォマルハウトから八穀のメンバーに指示があったのだ。明後日、4人の候補生が北の町に赴く。目的は、紫微垣の最終段階の試練を受けるためだ。
聞くと、正式な紫微垣になるための試練は二つあるという。一つは七星剣を自分で作ること。もう一つは奥義とも言える八の秘剣を会得すること。この二つの試練は、フォマルハウトが紫微垣を継承した時に考案したものだ。前者は、初代紫微垣であるアルコルとの邂逅を経て作成した。後者は、赤星団との戦いのクライマックスで技の啓示を受けた。後継者を探す際、この二つは紫微垣になる上で必要と考え、最終試練に位置づけた。
天牢庵ができてから10年以上になるが、七星剣作りの試練に合格できずに去って行った者は多い。今のところ、この試練をクリアできたのは現候補生のミモザだけである。今回は4人がいっぺんにこの試練を受けるが、合格できるかはまったく予想できない。
「その試練は1日がかりだから、昼食と夕食の弁当がいるんだよ」
八穀の先輩が言った。ということは、昼は普通の弁当でよいだろうが、夕食は傷みにくいよう工夫する必要がある。
「あとは、好きな食材で作ってやる必要がありますね」
「カノープス、優しいな」
先輩が言った。候補生への態度が辛辣だっただけに、意外な印象を持たれたようだ。しかし、
「あいつら、目の届かない場所だったら捨てかねませんからね。特別に好きなものを食わしてやりますよ、〝残したら殺す〟って手紙を添えて」
と、ぶっきらぼうに言った。ちなみに後日分かったことだが、実際には手紙ではなく海苔を切った文字を白米の上に載せたというから、かなり執念深い。
2日後。カノープスはミアプラたちに弁当を渡した。
「ほれ、しっかりやってこいよ」
するとミアプラは皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「何だよ?」
「ふふ…戻ってきたときは七星剣を持っているから、あんたの襲撃も怖くないわよ」
堂々とごはんを残してやるわ、とでも言いたげだった。それにムカっと来たカノープスは
「七星剣を作れるか分からないだろうが!」
「あーら、私は紫微垣・フォマルハウトの娘よ。いわばサラブレットなのよ。あんたなんかとは立場が違うのよ、賄いさん」
この言葉にカチンと来たカノープスは、出て行くミアプラをにらみつけた。そして――あることを決意した。
「カノープス、珍しいな。休暇をくれということか?」
八穀の責任者が言った。
「はい。1日だけでいいです」
「まあ、勤勉なお前だから、1日くらい休んでもいいだろう」
責任者は了解してくれた。さらに続ける。
「妹さんと遊んでやるのか? お前は妹思いだからな」
「まあ……」
と、言葉を濁すカノープスだった。
翌日。カノープスは――こっそりと北の町へ向かった。
紫微垣の試練である七星剣作り――七つの祠を巡り、星鏡と関連する物や事を獲得し、最後に剣を精錬するプログラムである。四代目紫微垣・アルクトゥルス、五代目紫微垣・シリウスの時には既に当たり前となっている。
ただ、この時代は、六つの祠で聖獣となる獣と戦うことになっていた。貪狼の祠では狼、巨門の祠では鮫、禄存の祠では一角獣、文曲の祠では蠍、兼貞の祠では鷲、武曲の祠では熊と戦う。それらに勝利し、最後に破軍の祠で七星剣を精錬するのだ。
出発した4人は全員、七星剣を携えて帰ってきた。しかし、これで終わりではない。彼らはフォマルハウトの前で七星剣を構えた。フォマルハウトは言った――。
「精神を研ぎ澄ませなさい」
すると、ミアプラの剣の星鏡が赤に変色した。アヴィのは黄色だ。
「君たちは合格だ」
フォマルハウト曰く、紫微垣の素質がある者は、星鏡の色が銀色から変色するという。彼自身はえんじ色で、先代のアルコルは紺色だった。2人の子供も変色したので素質あり、と判断された。
が――ガクルックルとアクルックスの七星剣のクリスタルは、いっこうに変色しなかった。
母マルケブはいない。東の都に来てからも昼夜逆転の生活は直らなかった。というよりもさらにひどくなっている。天牢庵をうろうろすることはあるが、カノープスに関わろうとはしないのだ。
しかし、カノープスには母親に気をもんでいる暇がない。支度が終わると、さっさと出勤した。
いつものように紫微垣の候補生たちのために朝食を作り、それが終わるとその日の昼食と夕食の仕込みをする。そんな生活が2カ月続いた。幸い、職場の人たちは皆親切で、仕事も丁寧に教えてくれる。何より、未成年のカノープスは子供や弟のようにかわいがられていた。今までは長子として、また家族を支える立場として懸命にこらえていたところもあるが、ここでは15歳らしい自分でいられる。それがうれしかった。
ミアプラたちとはにらみ合いが続いていたが、彼女らが食事を残さなくなってからはけんか自体がほぼなくなった。フォマルハウトも「やれやれ」とほっとしているという。
そんなある日――候補生たちが北の町に行くこととなった。
「4人分の弁当?」
カノープスは怪訝な顔をした。先ほど、フォマルハウトから八穀のメンバーに指示があったのだ。明後日、4人の候補生が北の町に赴く。目的は、紫微垣の最終段階の試練を受けるためだ。
聞くと、正式な紫微垣になるための試練は二つあるという。一つは七星剣を自分で作ること。もう一つは奥義とも言える八の秘剣を会得すること。この二つの試練は、フォマルハウトが紫微垣を継承した時に考案したものだ。前者は、初代紫微垣であるアルコルとの邂逅を経て作成した。後者は、赤星団との戦いのクライマックスで技の啓示を受けた。後継者を探す際、この二つは紫微垣になる上で必要と考え、最終試練に位置づけた。
天牢庵ができてから10年以上になるが、七星剣作りの試練に合格できずに去って行った者は多い。今のところ、この試練をクリアできたのは現候補生のミモザだけである。今回は4人がいっぺんにこの試練を受けるが、合格できるかはまったく予想できない。
「その試練は1日がかりだから、昼食と夕食の弁当がいるんだよ」
八穀の先輩が言った。ということは、昼は普通の弁当でよいだろうが、夕食は傷みにくいよう工夫する必要がある。
「あとは、好きな食材で作ってやる必要がありますね」
「カノープス、優しいな」
先輩が言った。候補生への態度が辛辣だっただけに、意外な印象を持たれたようだ。しかし、
「あいつら、目の届かない場所だったら捨てかねませんからね。特別に好きなものを食わしてやりますよ、〝残したら殺す〟って手紙を添えて」
と、ぶっきらぼうに言った。ちなみに後日分かったことだが、実際には手紙ではなく海苔を切った文字を白米の上に載せたというから、かなり執念深い。
2日後。カノープスはミアプラたちに弁当を渡した。
「ほれ、しっかりやってこいよ」
するとミアプラは皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「何だよ?」
「ふふ…戻ってきたときは七星剣を持っているから、あんたの襲撃も怖くないわよ」
堂々とごはんを残してやるわ、とでも言いたげだった。それにムカっと来たカノープスは
「七星剣を作れるか分からないだろうが!」
「あーら、私は紫微垣・フォマルハウトの娘よ。いわばサラブレットなのよ。あんたなんかとは立場が違うのよ、賄いさん」
この言葉にカチンと来たカノープスは、出て行くミアプラをにらみつけた。そして――あることを決意した。
「カノープス、珍しいな。休暇をくれということか?」
八穀の責任者が言った。
「はい。1日だけでいいです」
「まあ、勤勉なお前だから、1日くらい休んでもいいだろう」
責任者は了解してくれた。さらに続ける。
「妹さんと遊んでやるのか? お前は妹思いだからな」
「まあ……」
と、言葉を濁すカノープスだった。
翌日。カノープスは――こっそりと北の町へ向かった。
紫微垣の試練である七星剣作り――七つの祠を巡り、星鏡と関連する物や事を獲得し、最後に剣を精錬するプログラムである。四代目紫微垣・アルクトゥルス、五代目紫微垣・シリウスの時には既に当たり前となっている。
ただ、この時代は、六つの祠で聖獣となる獣と戦うことになっていた。貪狼の祠では狼、巨門の祠では鮫、禄存の祠では一角獣、文曲の祠では蠍、兼貞の祠では鷲、武曲の祠では熊と戦う。それらに勝利し、最後に破軍の祠で七星剣を精錬するのだ。
出発した4人は全員、七星剣を携えて帰ってきた。しかし、これで終わりではない。彼らはフォマルハウトの前で七星剣を構えた。フォマルハウトは言った――。
「精神を研ぎ澄ませなさい」
すると、ミアプラの剣の星鏡が赤に変色した。アヴィのは黄色だ。
「君たちは合格だ」
フォマルハウト曰く、紫微垣の素質がある者は、星鏡の色が銀色から変色するという。彼自身はえんじ色で、先代のアルコルは紺色だった。2人の子供も変色したので素質あり、と判断された。
が――ガクルックルとアクルックスの七星剣のクリスタルは、いっこうに変色しなかった。